今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 星野裕信 浜松医科大学 整形外科

監修: 酒井昭典 産業医科大学 整形外科学教室

著者校正/監修レビュー済:2021/06/02
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 日本股関節学会のFAI診断指針ならびに変形性股関節症診療ガイドライン改訂第2版の内容を盛り込んだ。

概要・推奨   

  1. 世界的にコンセンサスの得られたFAIの明確な診断基準はない。
  1. わが国における狭義のFAI診断指針が提唱されている。
  1. Cam変形は変形性股関節症の発生の危険因子になる(推奨度C)
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement、FAI)は、股関節の動きに伴って大腿骨と寛骨臼が衝突して種々の臨床症状を引き起こす病態のことである[1]
  1. 以前は原因不明の股関節痛といわれていたが、病態の認知度の向上や画像診断の進歩により診断が可能となった。
  1. 大腿骨側の形態異常によるものをcam type、寛骨臼側の形態異常によるものをpincer type、両者の合併するものをcombined typeまたはMixed typeという[2]
 
FAIのタイプ

FAIにはcam type(a)とpincer type(b)があり、cam typeは大腿骨側の形態異常、pincer typeは寛骨臼側の形態異常によって起こる。

 
  1. スポーツや外傷に伴って生じる場合と、日常生活動作における繰り返す衝突によって症状を引き起こす場合がある。
  1. 臨床症状は、股関節唇損傷の程度、軟骨損傷の程度によって異なる。
  1. 寛骨臼形成不全を伴わない1次性変形性股関節症の原因の1つとされている[3]
 
前外側股関節唇損傷

12歳女児。FAIによる左股関節唇損傷。前方ポータルより30°斜視鏡にて鏡視。プローベにて関節唇の寛骨臼縁付着部をゆっくり外側に引くと断裂部がみえる。

出典

著者提供
 
前方股関節唇損傷

28歳女性。FAIによる前方股関節唇損傷。前方ポータルより30°斜視鏡にて鏡視。

出典

著者提供
 
  1. 股関節唇損傷の誘因(参考文献:[4]
  1. 開排などの軽微な日常生活動作に起因するものや、スポーツによるものも多いため、詳細な問診が重要である。しかしFitzgeraldは55例の関節唇損傷患者を調査した結果、34例は受傷機転が明らかであったが、21例は原因が不明であったとしている。当科においても寛骨臼形態異常を伴わず、臨床所見、放射状MRIにより股関節唇損傷と診断した23例23関節について調査した結果、明らかな受傷機転が判明したものが15関節であり、8関節は受傷機転が不明であった。これらの症例は医療機関受診から診断がつくまでの期間は平均18.8カ月もかかっており、初診医の診断は「X線で異常はない」7関節、「打撲」5関節、「筋肉痛」2関節、「腰椎椎間板ヘルニア」9関節であった。
 
  1. FAIにおけるスポーツの関与(参考文献:[5][6]
  1. 前向き研究で、FAIの70%がsportsに起因するもので、そのうち30%がelite sportsであった。
  1. 症状の出現は徐々に生じ、活動性に応じて間欠的に生じる。
  1. 診断がつくまで数カ月から数年スポーツを休まなくてはならない。
  1. 鼠径部にするどい痛みや持続する痛みが生じる。
  1. 割れるようなまたはひっかかるような痛みが短時間持続する。
  1. 座った姿勢で不安で不快な感じがする(特に低い椅子)。
  1. ある特定の姿勢や股関節の角度で再現される。
  1. その再現性は変化することもある。
  1. 長時間座った後立ち上がるときに再現される。
  1. しばしば歩くときは痛くない。
  1. 股関節を強制的に屈曲するスポーツで多い。
 
FAIにおけるスポーツの関与

ある施設において、股関節鏡視下にFAIの治療を受けた200人の患者のスポーツの内訳を示す。

出典

J W Thomas Byrd, Kay S Jones
Arthroscopic management of femoroacetabular impingement in athletes.
Am J Sports Med. 2011 Jul;39 Suppl:7S-13S. doi: 10.1177/0363546511404144.
Abstract/Text BACKGROUND: Hip pathology is a significant source of pain and dysfunction among athletic individuals and femoroacetabular impingement is often a causative factor. Arthroscopic intervention has been proposed to address the joint damage and underlying impingement.
HYPOTHESIS: Arthroscopy may be effective in the management of symptomatic femoroacetabular impingement in athletes.
STUDY DESIGN: Case series, Level of evidence, 4.
METHODS: All patients undergoing hip arthroscopy at 1 institution were prospectively assessed with a modified Harris hip score obtained preoperatively and postoperatively at 3, 12, 24, 60, and 120 months. This report consists of a cohort of 200 patients identified who underwent arthroscopic management of femoroacetabular impingement, participated in athletic activities, and had achieved minimum 1-year follow up.
RESULTS: There was 100% follow-up at an average of 19 months (range, 12-60 months). A total of 116 athletes had achieved 2-year follow-up. For the entire cohort, the average age was 28.6 years (range, 11-60 years) with 148 males and 52 females. There were 159 cam, 31 combined, and 10 pincer lesions. There were 23 professional, 56 intercollegiate, 24 high school, and 97 recreational athletes. The male:female ratio was 2.8:1 among cam lesions and 1:1 among pincer lesions. The median preoperative score was 72 with a postoperative score of 96 and the median improvement was 20.5 points, which was statistically significant (P < .001). Ninety-five percent of professional athletes and 85% of intercollegiate athletes were able to return to their previous level of competition. There were 5 transient neurapraxias (all resolved) and 1 minor heterotopic ossification. One athlete (0.5%) underwent conversion to total hip arthroplasty and 4 (2%) underwent repeat arthroscopy. For the group with minimum 2-year follow up, the median improvement was 21 points with a postoperative score of 96.
CONCLUSION: The data substantiate successful outcomes in the arthroscopic management of femoroacetabular impingement with few complications and most athletes were able to resume activities.

PMID 21709026
 
  1. 股関節唇損傷の発生機序(参考文献:[3][7][8][9][10][11][12][13]
  1. FAIは股関節の形態異常に基づいて生じる大腿骨と寛骨臼縁の衝突によって生じる障害である。これは大腿骨側の形態異常と寛骨臼側の形態異常およびその両者の形態異常が存在すると、股関節可動域が生理的範囲を超えなくても、日常生活動作における股関節の可動時に、大腿骨頭や大腿骨頚部が寛骨臼縁に衝突を来すために関節唇損傷や軟骨損傷を生じるものである。
  1. cam impingement
  1. 特に大腿骨頭から頚部の形態異常により股関節屈曲時に大腿骨頭の隆起部に股関節唇が挟み込まれたり、大腿骨頭が寛骨臼縁で外側から内側にかけての剪断力を生じることにより、寛骨臼縁軟骨移行部において関節唇損傷を来す。大腿骨頭変形は先天性股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症や外傷後に2次的に生じるものや、明らかな原因がなく大腿骨頭から頚部にかけてのoffsetの減少または骨性隆起によりに生じるものがある。この大腿骨頭の形態異常の指標として、pistol-grip deformityの有無、頚部オフセットが7mm以下であったり、Nötzliらの提唱しているα角が50°以上である場合に形態異常ありとする報告がある。また、2038人の健常若年者のデータから、単純X線正面像での角の正常上限を97.5パーセンタイルとすると、男性93°、女性94°、側面像では男性68°、女性56°という報告もあり。
  1. pincer impingement
  1. 寛骨臼側の形態異常により関節唇が挟み込まれることにより生じるものはpincer impingementといい、寛骨臼が後方へ捻れている状態(acetabular retroversion)であったり、寛骨臼の前後方向への捻れは正常であるが、寛骨臼縁が前方に張り出している状態(anterior over coverage)や、深い寛骨臼(coxa profunda)であるために、過度でない股関節の屈曲可動域において、大腿骨頚部と寛骨臼縁が衝突することによって生じる関節唇の断裂または寛骨臼縁軟骨移行部におけるdetachmentを来す。単純X線上cross-over signやPRIS signを呈することが多いと報告されている。
 
pistol-grip deformity

cam typeに特有の大腿骨の変形。股関節正面または側面X線像にて骨頭を円形に見立てた場合、外側または前方のhead-neck junctionにおいて、円からはみでる張り出しのあるもの。

出典

著者提供
 
cross-over sign

pincer type に特有の単純X線所見。
寛骨臼の前縁線が深く張り出して、後縁線と交差する。寛骨臼のretroversionを示唆する。
AP pelvic viewでのみ評価、股関節中心像ではない。
・前縁後縁の線が不鮮明な場合、罹患側を空気圧迫して立位で撮影するとよい。
・cross-over pointは寛骨臼の上方1/4で起こる。

出典

著者提供
 
prominence of the ischial spine (PRIS)sign

PRISは股関節単純X線正面像で坐骨棘が突出してみえる。
寛骨臼のretroversionを示唆する所見。
・pincer type FAIのリスクの1つとなる。

出典

著者提供
 
posterior wall sign

骨頭の中心が寛骨臼後縁より外側にある。
寛骨臼のretroversionを示唆する所見。
・pincer type FAIのリスクの1つとなる。

出典

著者提供
 
  1. 股関節唇損傷におけるFAIの関与(参考文献:[14]
  1. 股関節唇損傷にFAIがどの程度関与しているかは、現在のところ画像上FAIの指標をどの程度有していたかで判断せざるを得ない。Wengerらは31名の股関節唇損傷患者の骨形態異常の頻度を調査した結果、36%に寛骨臼後捻、41%に大腿骨頚部offsetの減少を認め、FAIの骨形態異常を示さなかったのは13%であったと報告している。また、Guevaraらは、78名の寛骨臼形成不全のない股関節唇損傷患者の単純X線上のFAIの指標を調査した結果、cross-over signは44%にみられたと報告している。当科においても、寛骨臼形成不全がなく、放射状MRI、股関節造影、キシロカインテストにより股関節唇損傷と診断した44関節を対象としてFAIの関与と受傷機転の有無を調査した結果、約6割にFAIの関与が認められた。またpincer群と正常群では受傷機転を有する例が多い傾向であり、この2つのタイプのFAIは関節唇損傷に際して損傷機転が異なる可能性があると思われる。
 
  1. FAI疫学(参考文献:[6][15]
  1. 典型的なFAIは20~50歳にみられ、男性が2/3であった。
  1. フランスで16~50歳までの股関節痛の患者292名の前向き多施設試験で、FAIが原因だったものは58%(うち2/3がOA、35%が寛骨臼形成不全)。
 
  1. FAIが変形性股関節症の原因(参考文献:[3][6][16][17][18]
  1. 前方FAIが早期の変形性股関節症の原因となる
  1. cam lesionの寛骨臼前上方への刺激が繰り返し生じると、関節唇、軟骨、軟骨下骨に損傷が生じ、最終的には変形性股関節となる。
  1. pistol-grip deformityとmildなOAを有する43人のAP単純骨盤X線像が10年後に再撮影され、OAの進行は1/3にのみみられた。側面像のX線は撮影されていない。
  1. cam lesionの寛骨臼縁への刺激が繰り返し生じると、軟骨のdelamination、erosion、軟骨表面の亀裂や軟骨のflapが生じる。
  1. FAI患者の早期のOAのリスクとなるスポーツ活動、遺伝的関与、重労働、傷害の既往について前向きに検討した結果、OAの家族歴が20%に、重労働が 10%にみられた。またスポーツ活動のないものが30%にみられた。唯一変えることのできない要因はOAの遺伝的要因であった。
  1. X線正面像におけるcam変形は変形性股関節症の発生の危険因子になることが報告されている[19][20][21]
  1. X線正面像上のCE角を用いて評価したpincer変形は、股関節症の発生の危険因子ではないと報告されている[20][22]。一方でCE角を用いてpincer変形を評価した論文ではpincer変形と股関節症の発生が有意に関連することが報告されている[23][24]。Pincer変形の定義が多様であり、また報告により結果がおt子なるため、pincer変形をコカs熱証のp発生の危険因子と結論付けることはできない。
 
問診・診察のポイント  
  1. いつから痛みが始まったか、何をしていたときに発症したか、スポーツや職業の種類、また発症の際の股関節の姿位を確認する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
星野裕信 : 未申告[2024年]
監修:酒井昭典 : 講演料(旭化成ファーマ(株),日本臓器製薬(株),帝人ヘルスケア(株))[2024年]

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大腿骨寛骨臼インピンジメント

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