今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 熊井司 早稲田大学スポーツ科学学術院

監修: 酒井昭典 産業医科大学 整形外科学教室

著者校正/監修レビュー済:2020/10/07
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. コンテンツ名を「アキレス腱炎(症)・周囲炎」から、「アキレス腱症・周囲炎」へと変更し内容を一部修正しました。

概要・推奨   

  1. アキレス腱症とアキレス腱付着部症の病態をしっかり区別する必要がある(推奨度1)
  1. 病態を理解した上で、いくつかの保存療法を選択的に用いて対応する(推奨度1)
  1. 診断、治療、経過評価に、超音波画像検査が有用である(推奨度2
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. わが国ではアキレス腱症・周囲炎の診療ガイドラインは作成されていない。いまだ、アキレス腱に関連した他の疾患と区別して治療されていないことも少なくない。そのため各疾患概念をしっかり区別して把握することが重要であり、病態の特徴を理解したうえで治療法を考えることが望ましい。
  1. 近年の欧米での動向をみると、アキレス腱の障害(Achilles tendinopathy)は、その解剖学的部位により、アキレス腱実質にみられる障害(non-insertional Achilles tendinopathy)と、アキレス腱付着部近傍にみられる障害(insertional Achilles tendinopathy)が区別して論じられるようになってきている。それぞれの病態も異なっていることが証明されており、病理組織学的には、腱や腱付着部の微小損傷が繰り返されることによる修復不全の状態、つまり「変性」が基盤となっていることから、以前のような腱炎、付着部炎といった名称はほとんど用いられなくなり、前者をアキレス腱症、後者をアキレス腱付着部症と呼ぶようになっている[1][2]
  1. 一般的に腱症の発生は、リクリエーショナルスポーツ人口が多い先進諸国で高い傾向にあるとされている[1]
  1. 治療の原則は保存療法であるが、スポーツ選手の場合は進行している例も多く、難治性となり手術療法を必要とすることも多い。
 
アキレス腱症:
  1. アキレス腱症は、明らかな外傷歴は認めないものの、オーバーユース、オーバーロードなどで無意識下に起こっている微細損傷や小断裂が繰り返されることにより、修復不全の状態に陥ることで発症する。病理組織学的には、アキレス腱実質内の変性と退行性変化(瘢痕化、変性肉芽組織)が主な病態である。そのため、これまで用いられていた腱炎(tendinitis)という名称ではなく、腱症(tendinosis)という名称を用いるほうが病態を正確に反映しており推奨されている[1][2]
  1. 初期損傷の修復過程がうまく進めば治癒に至るが、適切な対応がなされずに過度の負荷を繰り返すことで修復不全の状態に陥り、異常血管網を伴う瘢痕性肥厚・肉芽が形成され、徐々にパラテノンなど周囲組織との癒着などをきたすことで、二次的な腱周囲炎の病態を併発することになり、症状が強くなる。
  1. アキレス腱実質の踵骨付着部から近位2~6cmの部位は解剖学的に血流が少ないため、損傷後の修復能力は乏しい。
 
アキレス腱周囲炎:
  1. アキレス腱周囲炎とはアキレス腱を包んでいる腱膜の1つであるパラテノンの炎症であり、原則的には腱実質は正常である。腱とその周囲組織の滑走性の異常により、パラテノンの炎症が繰り返されパラテノンの肥厚、腱との線維性癒着を起こすようになる。アキレス腱症とアキレス腱周囲炎は合併していることも多い[3]
  1. アキレス腱症・周囲炎は、陸上競技、バレーボールなどのスポーツ選手に多く認められ、オーバーユース、誤ったトレーニング内容や負荷の急激な増大、不適切な靴の使用などが主な原因となる。ほかに加齢性変化、下腿三頭筋の柔軟性低下、回内足、凹足などのアラインメント異常も関係しているほか、一般的に血行障害を助長する脂質異常症、糖尿病、肥満やステロイドの使用歴も発症要因に関連している[1]。夏期よりも冬期のほうがやや発生率が高いとされている。
問診・診察のポイント  
  1. アキレス腱痛を訴える疾患の病態はさまざまであり、正確な解剖学的要因や形態異常の評価が必要とされる。一般診療では「アキレス腱痛=アキレス腱症」の誤った認識のもとで、同じ病態として正確な診断がなされないままに不適切な治療が行われていることも少なくない。そのため慢性の病態に陥ってから専門医へ紹介されてくることも多く、初期治療の遅れからすでに難治性となっている症例も見受けられる。特にスポーツ選手の場合、難治性のアキレス腱障害に陥ることは、その後の選手生命に大きく関わる問題となるため、できるだけ早期の確定診断が重要である。

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オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
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尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
熊井司 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:酒井昭典 : 講演料(旭化成ファーマ(株),日本臓器製薬(株),帝人ヘルスケア(株))[2024年]

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アキレス腱症・周囲炎

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