今日の臨床サポート

在宅医療の夜間緊急往診の事例とその対処方法

著者: 和田忠志 いらはら診療所 在宅医療部

監修: 和田忠志 いらはら診療所 在宅医療部

著者校正/監修レビュー済:2022/05/25
患者向け説明資料

概要・推奨   

  1. 現代の在宅医療は「定期往診(訪問診療)」と「24時間対応」の2つから構成される。夜間の緊急対応は定期的医学管理と切り離すことができない。夜間の緊急対応は、定期的な訪問による医学管理および日中の対応の蓄積のもとに有効に実施される。したがって、日中の診療の質が高ければ、夜間の状態変化が減少する。
  1. 夜間に症状が変化する大部分の患者では、すでに日中に変化の一部が現れていることが多い。したがって、日中に病状変化のサインを捉え、早期に対応しておけば、夜間の緊急対応を求められる可能性が低くなる。医師は「予測する」ことが仕事の重要な一部である。日中の診療で、夜間に起こり得ることを予測し、「予測に応じた治療」や、「起こり得ることの説明」、「使用するかもしれない頓用薬の処方」などを行うことにより、夜間の患者・家族からの相談(および夜間臨時対応)を減らすことができる。
  1. また、在宅医療に導入して間もない患者や、がん患者などの場合には、毎日あるいは隔日に、医師や看護師がこまめに訪問し、そのつど起こってくる問題点に対して、日中に対応することで夜間の相談を減らすことができる。このような活動を行ったうえで、「夜間いつでも相談してください」と告げることで大きな安心を与えることができる。また、夜間、患者や家族から電話相談を受ける場合にも、臨時往診を行う場合でも、その大部分は日中に予測されているものであり、医師の側では、ある程度の「心構え」を持って臨むことができる。
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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
和田忠志 : 特に申告事項無し[2022年]
監修:和田忠志 : 特に申告事項無し[2022年]

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った。

まとめ

概論  
日中の具体的な対応:
 
日中の具体的な対応

出典

img1:  著者提供
 
 
 
  1. 医師が日中に患者の変化に気づく要因は2つある。1つは、患者・家族や、訪問看護師などから連絡を受ける場合である。もう1つは、定期的に行う訪問診療時に、患者の状態変化に気づく場合である。
  1. いずれの場合であれ、その場で状態変化に対応した診療や助言を行い、病状のさらなる悪化を防止することはいうまでもない。そのときに、夜間あるいは休日に生じるであろう病状変化を予測するのが重要である。本人や家族に起こりそうな事柄やその対処方法を告げ、必要に応じて頓用の薬物などをあらかじめ処方し、その使用法などについても説明を行う。そのうえで、「夜間いつでも電話で相談してよい」ことを告げることにより、患者や家族は強い安心感を覚えるであろう。
  1. 以上が日中の診療時の対応であるが、加えて、必要に応じ、夕刻(例えばその日の医師の診療終了時刻)に一度電話をかけ、再度病状を聴取して、必要な指示を行う方法もよい。あるいは、夕刻などに再度訪問して状態を確認したり必要な指示を行うという方法もよい。
  1. このような対応をしておけば、患者や家族もある程度の安心感を持つことができる。そして、医師が予想した範囲内の変化が生じても、「医師が日中にあらかじめ行った説明や指示」に応じて、本人や家族が適切に対応できる可能性が高い。
  1. それでも本人や家族が自分たちの対応能力を超えていると判断したとき、夜間に電話がかかってくることになる。また、それほど多くはないが、日中に状態変化がなかった患者からの電話もある。これらの電話の圧倒的多数は、実は「電話での対話のみで対応可能」で、看護師や医師の出動を必要としない。しかし、電話での対話では医学的な対応が十分にできないとき、本人・家族が不安をぬぐいきれない場合には、夜間の訪問看護あるいは往診を実施する。
 
夜間の緊急対応の具体的な方法:
  1. 夜間のファーストコールは、「看護師が受ける方法」と「医師が受ける方法」がある。病棟のナースコールと同じく、看護師がファーストコールを受ける体制が医療技術的に自然である。そして、その場合、医師は看護師の判断と助言により、夜間に往診を行うべきかどうかを決定できる。
 
  1. 看護師がファーストコールを受ける場合
 
夜間の緊急対応の具体的な方法①

看護師がファーストコールを受ける場合。

出典

img1:  著者提供
 
 
 
  1. これは、急性疾患などの併発があれば、「まず患者や家族が看護師に連絡するシステム管理」である。ファーストコールを受ける看護師は、訪問看護ステーション看護師の場合もあれば、医師の勤務する医療機関の看護師の場合もあるが、対応には本質的な相違はない。
  1. まず、電話で患者や家族から看護師が病状などを聴取する。そして、看護師が病状の評価を行い、本人や家族に指導を行うが、この「電話相談」のみで終了することが、事例としては圧倒的に多い。いらはら診療所のデータでは、75%程度が電話相談のみで終了する。また、あおぞら診療所のデータでは85%程度が電話相談のみで終了する。
  1. しかし、さらなる病状評価や医療処置、現場での指導が必要であることを看護師が認識した場合、看護師は自ら訪問看護を実施するであろう。訪問看護を実施し、看護ケアあるいは本人・家族との対話によって、一定の解決をもたらした場合、対応は終了となる。この経過中に、訪問看護師は医師に指示を求めることもある。あるいは、訪問看護終了後に医師に病状の報告をすることもある。医師は看護師の相談に対応して、適切な医療処置の指示を行う。
  1. それでもなお、看護師対応だけでは困難で、改めて病状評価や医師による治療が必要と判断された場合、往診実施を決定する。この場合、看護師からの医師への往診依頼という形が多いであろう。
  1. 一方、電話相談の段階で入院の必要性があることが判明し、訪問看護や往診を行うよりも、すぐに入院するほうがよいと判断される場合には、そのまま病院に搬送することを家族に勧めることもある。もちろん、「家に最期までいたい」意思の患者の場合はその限りではないが、急性期治療を希望する患者については、(訪問看護や往診をしないで)入院を勧めることがある。
  1. なお、医師からみれば「入院治療の必要性」が電話相談で得られた情報から明確な場合でも、本人あるいは家族と入院の是非について話す必要がある場合や、患者が独居の場合には、看護師や医師が訪問して、入院を円滑にする必要があるかもしれない。
  1. 以上のように、入院を勧める場合でも、患者の希望聴取や普段からの患者との関係性により、「どのような手順で入院加療に移行するか」は、ケースバイケースで判断する。患者・家族との電話相談のみで入院治療を決定する場合でも、医師は入院先病院を探したり、受け入れ病院に紹介状をFAXなどで送付して、患者に便宜を図ることが望ましい。
 
  1. 医師がファーストコールを受ける場合
 
夜間の緊急対応の具体的な方法②

医師がファーストコールを受ける場合。

出典

img1:  著者提供
 
 
 
  1. 「医師がファーストコールを受けるシステム」を採用している医療機関は多くはないが存在する。病状変化に対する相談窓口は看護師が行うことが医療技術的にも自然であり、医師を疲弊させない点でも有利である。しかし、看護師の体制に恵まれない場合や、「医師がまずは責任を持って評価をすべき」と考える医療機関では、医師が夜間のファーストコールを受けるシステムが実施されている。
  1. このシステムは、「医師が最初に相談に応じる」以外は、手順は看護師がファーストコールを受ける場合とほとんど同じである。異なる点は、電話相談のみで対応が終了しないとき、看護師が訪問すべきか医師が訪問すべきかを医師が判断して、訪問を看護師に依頼したり、あるいは自ら往診を行うという点である。
 
夜間に電話を受けるシステム管理に関して:
  1. 24時間対応の入り口は電話である。その「電話を(失敗なく)確実に受ける」方法がさまざまなに工夫されている。基本的に、「電話に人間が出る」手法が望ましい。留守番機能つき電話機を使用する医療機関もあるが、認知症や知的障害を有する人では、留守番電話に対応できないことがある。
  1. 医師あるいは看護師の携帯電話へ転送
  1. この方法は、かかってきた電話を医師あるいは看護師の携帯電話に転送する方法であり、患者が直接医師あるいは看護師に接触可能である。
  1. この方法は、携帯電話に電波が通じない場所にある場合には、電話を受けることができない欠点がある。また、話し中に別の患者から電話がかかったらどうするか、という問題がある。この点に関しては、キャッチホン機能を利用する方法や、回線を2回線保有して2つの転送用携帯電話を用意する方法がある。
  1. 留守番電話機より携帯電話に転送
  1. 患者あるいは家族がメッセージを留守番電話機に録音する方法である。留守番電話機の転送機能でスタッフの携帯電話が鳴るシステムである。連絡を受信した者は、外部から留守番電話機にアクセスし、メッセージをききとり、患者宅に電話する。
  1. このシステムでは、患者あるいは家族は、いったん電話を切って、医療機関からの連絡を待つことになる。しかし、患者や家族が医療機関に電話をかけた直後に、他の家族などに電話をかけ続けることがある。すると、看護師や医師が患者宅に電話しても、「話し中」ということになる。この事態を防ぐために、このシステムを採用する場合には、あらかじめ「留守番電話にメッセージを残した後、電話は使用せずに空けておいてください」という説明しておく必要がある。
  1. この方法はデメリットも多い。まず、患者の連絡からタイムラグが出てしまう点である。また、電話をかけた人が、認知症や知的障害を有する場合には、留守番電話にうまく対応できないことがある。
  1. 事務当直者を院内に置く方法
  1. これは、当直事務員が、患者あるいは家族からの電話を受け、当番の看護師や医師に連絡するシステムである。
  1. この方法は回線電話で人間が電話をとるため、確実に患者からの第一報を受けることができる。携帯電話転送時のような「電波が通じない」トラブルもない。電話した人に多少の認知症や知的障害がある場合でも確実に連絡を受け止めることができる。また、キャッチホンを使用したり、医療機関が2回線以上の回線を持っていれば、事務当直者と患者・家族とが話している最中に、別の患者から電話が来ても対応可能である。
  1. また、事務当直者は医療機関内部にいるので、看護師や医師が事務当直者に指示して、カルテを読んでもらったり、カルテの必要箇所を医師自宅などにFAXしてもらうこともできる。情報を事務当直者から取れば、患者を搬送する必要があるときなどに、医師は自宅にいて紹介状を記載できる。また、事務当直者は、人間であるがゆえに「自分で判断して対応できる」利点が大きい。例えば、当番の看護師や医師に連絡がつかないとき、事務当直者は、別の看護師・医師あるいは管理職に電話をかけて、患者に対応する人を探すこともできる。
  1. このシステムも、患者・家族は、事務当直者に連絡した後、「いったん電話を切って、医療専門職からの連絡を待つ」システムである。したがって、医師・看護師が患者宅に電話をかけても「話し中」というリスクがある。この事態を防ぐために、事務当直者は患者に、「いま話している電話に看護師(あるいは医師)から電話がかかりますから、使用せずに空けておいてください」という説明を行う必要がある。
  1. 医師当直を置く
  1. 院内に当直医師を置き、その当直医師が電話に対応し、かつ、必要に応じて、臨時往診を実施するものである。電話対応が直接的であるばかりか、カルテも手元にあり、最強の方法である。有床診療所や病院ではもともと当直医が宿泊しているので、この方法を採用できる。
  1. 訪問看護ステーションがファーストコールを受ける
  1. この方法は、訪問看護ステーション看護師に患者からの夜間のファーストコールを受けてもらう方法である。看護師は専門職として大部分の事例に自力で対応するため、看護師が必要と認めたときに、医療機関の医師に連絡がくることになる。
  1. 医師には、看護師では対応不能な厳選されたケースだけが報告される。医療機関側の経費は少なく、医師の心理的負担も少ない。また、医師は看護師からの専門的見地からの良質な情報を受け取ることができる。逆に、医療機関側からみれば、24時間対応型の訪問看護を受けている患者にしかこの方法は適用できない。
 
夜間の緊急連絡システムの比較

出典

img1:  著者提供
 
 
 
夜間のカルテ閲覧や紹介状記載:
  1. 自宅と診療所が同一場所の開業医
  1. 多くの開業医は、自宅と併設した診療所を保有しており、自宅にいる限りにおいて、カルテを自由に閲覧可能である。この場合、患者・家族あるいは訪問看護ステーション看護師から電話連絡を受けても、即座にカルテを閲覧しながら対応できる点で強みがある。
  1. 医師がカルテの存在場所と別の場所にいるときの対応
  1. しかし、複数体制で夜間対応を行う在宅医療機関や、在宅医療機関と医師の自宅が別の場所にある場合、「夜間どのようにカルテを閲覧するか」「夜間に自宅などでどのようにして紹介状などを記載するか」という課題に遭遇する。
  1. 以前は、事務当直を医療機関に置いている医療機関では、事務当直が医師の自宅にカルテの必要の部分をFAXなどで送付する方法などが行われていた。あるいは、患者病状のサマリー一覧を医師が持ち歩く方法をとる医療機関もあった。しかし、最近では電子カルテシステムが進歩し、スマートフォンなどの携帯電話端末でカルテを閲覧できるシステムを完備した医療機関も増えてきた。また、電子カルテをノートパソコンに取り込んでいつも医師が持ち歩く方法もある。今後は電子カルテ技術の進歩により、在宅医療機関外でのカルテ閲覧は容易になると思われる。
  1. カルテが閲覧できれば、自宅などにいて紹介状を記載することも困難ではない。自宅などで紹介状を記載し、患者の転送先病院に紹介状をFAXなどで送付することで、患者の便宜を図ることができる。
 
  1. 医師の夜間呼び出しの実質的な身体的負担:
  1. 末期がんや神経難病を積極的に診療する千葉県のあおぞら診療所(上本郷および新松戸)と同等の重症度の患者を在宅医療で診療する場合、在宅患者数と夜間臨時往診回数の予測を行うと、表(<図表>)の結果となる。
  1. この呼び出し回数を多いとみるか、少ないとみるかは価値観によるであろう。
  1. 開業医が在宅医療で10人の患者(あおぞら診療所[上本郷および新松戸]と同等の重症度の患者)を診療している医師の場合、その医師が夜間に呼び出される回数は2カ月に1回以下となる。また、その呼び出しの大部分は日中から予測されているものである。
  1. 患者層や、システムにより、医師や看護師の労働負担はバリエーションに富む可能性が高いとはいえ、病院勤務者などに比較して、24時間対応型在宅医療での医師労働は、必ずしも過酷な実態ではないと考えている。
 
在宅患者数と夜間臨時往診回数の予測

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