今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 石金正裕 国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター

監修: 大曲貴夫 国立国際医療研究センター

著者校正/監修レビュー済:2022/07/20
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、主に疫学的知見と感染経路について加筆修正を行った。

概要・推奨   

  1. 報告数は、年々減少傾向ではあるものの、サウジアラビアにおいては継続的に報告数があることから、日本においても、感染症法上の2類感染症として引き続き注意が必要である(推奨度1)
  1. これまでのアウトブレイク事例より、感染予防策が十分ではない空間(医療機関、救急車内、居住空間など)ではヒト-ヒト感染が発生することが明らかになった。感染様式は飛沫感染であることは間違いないため、MERSを疑う場合は、飛沫感染対策が推奨される(推奨度1)
  1. 一方、不顕性感染者の他者への感染性についてはまだ結論が得られていない。また2022年5月3日現在、明らかな空気感染の証拠はないが、MERS-CoVの一部が空気中から発見されたという報告もあるため、知見が集まるまで、および患者発生時の少なくとも初期については空気感染対策が推奨される(推奨度2)
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病態・疫学・診察 

疾患情報  
ポイント:
  1. 中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome、MERS)とは、2012年にサウジアラビアで初めて確認された新種の中東呼吸器症候群コロナウイルス(Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus、MERS-CoV)により引き起されるウイルス性呼吸器疾患である。2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMERS-CoVが分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者においてMERS症例が継続的に報告されている。2015年5月に、中東地域への渡航歴のある韓国人の確定例が報告され、その後7月までに186例のMERS確定例が韓国より報告されたが、2015年12月24日に終息宣言が出された。その後も中東中心に世界で報告はされ、2018年9月には韓国で1例の報告がなされた。報告数は年々減少傾向であるが、サウジアラビア中心に継続的に報告されており、日本においても感染症法上の2類感染症として注意が必要である。2022年5月3日現在、日本での報告例はない。
 
中東呼吸器症候群コロナウイルス(Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus、MERS-CoV)

出典

[https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/2185-disease-based/alphabet/hcov-emc.html 国立感染症研究所(2014年6月9日更新)]
 
  1. MERS-CoVのヒトへの感染源となるのは、MERS-CoVに感染したヒトコブラクダあるいはヒトのMERS確定症例である。動物-ヒト感染の感染経路は十分に解明されていないが、ヒトへの感染は、MERS―CoVに感染したヒトコブラクダへの直接または間接的な接触により成立する。サウジアラビアのヒトコブラクダからMERS-CoVの遺伝子が検出されており、ヒトコブラクダとの濃厚接触(ラクダ乳の喫食を含む)が感染の契機となると考えられている。さらに、中東や韓国で経験された10例以上のクラスターとなった院内感染の事例より、感染予防策が十分ではない空間(医療機関、救急車内、居住空間など)ではヒト-ヒト感染が発生することが明らかになった。主な感染様式は飛沫感染である。
  1. サウジアラビア及び韓国の病院におけるアウトブレイクでは、MERS確定例の接触者に対し呼吸器検体を用いたスクリーニング検査を実施した結果、無症候性または軽度の症状を呈するMERS-CoV陽性の医療従事者が確認された[1][2][3]
  1. 初発例から4次感染まで広がったサウジアラビアの事例では、接触者153人を対象としたスクリーニング検査で7人(4.5%)の医療従事者がMERS-CoV陽性であり、無症候性または軽症であった。また、無症候性MERS-CoV陽性者からの感染の可能性が示唆されている[3]
  1. 2022年5月3日現在、明らかな空気感染の証拠はないが、MERS-CoVの一部が空気中から発見されたという報告もある[4]
  1. WHOは、国際保健規則(IHR)に基づく対応として、これまでにMERSに関する緊急委員会を2013年7月以降に計10回開催しており、直近の第10回(2015年9月2日開催)では、感染経路についてはこれまで同様、持続的なヒト-ヒト感染を示す証拠はなく、現状は「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」には至っていないが、依然として国際的な拡大が懸念されるとした[5]。また同緊急委員会では、感染予防・感染制御策として、具体的に医療機関でのcapacityの確保、good practiceのための知識やトレーニングの実施、感染者の早期発見の必要性が言及され、調査・研究指針として人や動物に対するワクチンや治療法の開発という勧告が加わった。
  1. 臨床像は、無症状および軽症例から急速性呼吸切迫症候群(ARDS)を来す重症例まである。典型的には、発熱、咳嗽、息切れなどの症状から始まり急速に肺炎を発症し、しばしば呼吸器管理が必要となる。呼吸器症状以外には、約30%の患者が嘔吐、下痢などの消化器症状を呈した報告がある。典型的な検査所見では、白血球減少(リンパ球減少)を認め、場合により血小板減少症を認める。重症例ではアミノトランスフェラーゼの中等度上昇を認めることがある。MERSの潜伏期間は2~14日(中央値は5日程度)とされる。高齢者や免疫低下、腎疾患、悪性腫瘍、肺疾患、糖尿病などの慢性疾患を有する患者はMERS-CoV感染による重症化をしやすい。致命率は30~40%と報告されている。
  1. 診断は地方衛生研究所および国立感染症研究所にてPCR検査を用いて行われる。現時点で、有効性や安全性が確立された治療法は存在せず患者の状態に基づいた対症療法が中心となるが、先行研究の報告では有用性が示唆されるものもあることから、そのような国内未承認または適応外の治療法のうち、検討が必要と考えられる治療法について、対象患者の要件や具体的な投与方法などについて検討することを目的とした研究班が立ち上がった。また、感染予防策としては、確定診断例では原則は隔離を基本とし、飛沫感染の予防を徹底し、また可能な限り空気感染予防を追加する。
  1. MERSは2015年1月21日付けで、感染症法上の2類感染症に追加されており、疾患を疑った場合はただちに届出をする必要がある。2015年以降、渡航歴、接触歴、症状などからMERSの検査を実施した事例があったが、結果は全て陰性であった。全ての患者にアラビア半島またはその周辺の国への渡航歴があった。接触歴については、ラクダの騎乗、ヒトコブラクダの騎乗と生乳摂取、MERS患者との接触の疑い等であった。これらの所見から、これまでのMERS疑似症の定義では、蓋然性が低い患者もMERS疑似症として取り扱われていたことが推察された。そのため、2017年7月7日[6]にMERS疑似症の定義が以下の様に変更になった。
  1. 38℃以上の発熱及び咳を伴う急性呼吸器症状を呈し、かつ臨床的又は放射線学的に肺炎、ARDS 等の肺病変が疑われる者であって、発症前 14 日以内に流行国(※1)において、MERS であることが確定した患者との接触歴があるもの又はヒトコブラクダとの濃厚接触歴(※2)があるもの
  1. 発熱又は急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する者であって、発症前 14 日以内に MERS であることが確定した患者を診察、看護若しくは介護していたもの、MERSであることが確定した患者と同居(当該患者が入院する病室又は病棟に滞在した場合を含む。)していたもの又は MERS であることが確定した患者の気道分泌液、体液等の汚染物質に直接触れたもの
  1. ※1流行国:中東地域の一部なお、届出基準(別添1)第3の5の(4)感染が疑われる患者の要件における「WHOの公表内容から中東呼吸器症候群の初発例の発生が確認されている地域」についても、「中東地域の一部」とする。
  1. ※2ヒトコブラクダとの濃厚接触歴:ヒトコブラクダの鼻や口等との接触(ヒトコブラクダから顔を舐められるなど)や、ヒトコブラクダの生のミルクや非加熱の肉などの摂取
  1. また、MERSの疑いがある患者が医療機関受診して二次感染を起こす可能性を考慮すると、医療機関の受診前にまず保健所に連絡をし、対応を仰ぐことも重要である(国内対応: >詳細情報 参照)。
  1. 中東呼吸器症候群は学校保健安全法で第一種感染症に指定されており、「治癒するまで」を出席停止の期間の基準としている。
 
世界での発生状況:
  1. WHOへ報告されたMERSの検査診断による確定例は、2012年9月1日から2022年2月28日までに、27カ国より、2,585例(死亡891例:致命率34.5%)であった(WHO Disease Outbreak News (DONs)に適宜更新情報掲載)(表<図表>)。初感染例は50代が、2次感染例は30代が多かった。死亡例は、初感染例で50代が、二次感染例で70代が多かった。
  1. 2019年6月30日までに WHO に報告された検査確定例(n=2449)のうち、20.8%が無症候、あるいは軽症例、46.5%が重症例あるいは死亡例であった。
  1. 症例の大部分はサウジアラビアから報告されている(2184例、84.5%)。ほとんどの報告患者ではラクダへの曝露歴が不明である。また、複数の院内のアウトブレイク事例において、ヒト-ヒト感染が報告されている。2022年2月28日時点で感染は世界27カ国から報告されており、中東地域(バーレーン、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、レバノン)、アフリカ(エジプト、チュニジア、アルジェリア)、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、オランダ、オーストリア、トルコ)、アジア(マレーシア、フィリピン、タイ、韓国、中国)、北アメリカ(米国)で、中東地域以外の国からの報告例は、すべて中東地域への渡航歴のある者、もしくはその接触者であった。
  1. 中東以外の国で、輸入例を発端とした国内感染事例が報告されているのは、イギリス、フランス、チュニジア、韓国の4カ国である。
 
国・地域別MERS症例報告数の流行曲線

国・地域別MERS-CoV感染。2012年9月1日から2022年2月28日までに、27カ国より、2,585例が報告された。

出典

WHO EMRO:[https://applications.emro.who.int/docs/WHOEMCSR502E-eng.pdf?ua=1 MERS situation update February 2022]
 
サウジアラビアでの発生状況:
  1. 2021年8月1日から2022年2月28日の間に、サウジアラビアから、4例の死亡例を含む6例のMERS-CoV感染症例がWHOに追加報告された。これらの症例は、リヤド(Riyadh)(4例)、東部州(Eastern)(1例)、ターイフ(Taif)(1例)の地域から報告された。
 
サウジアラビアにおけるMERS症例報告数と死亡例の分布、2012年から2021年

  1. 6例すべてについて家庭内での接触者のフォローアップが行われ、二次感染者は確認されなかった。
  1. 今回の6例は、いずれも既知の疫学的・臨床的所見であったため、今回の報告によって、全体的なリスク評価に変更はなかった。

出典

WHO:[https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/middle-east-respiratory-syndrome-coronavirus-(mers-cov)-saudi-arabia-2022 Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – Saudi Arabia 7 April 2022]
 
韓国での発生状況:
  1. 医療機関におけるMERS症例の集積は中東の国(特にサウジアラビア)から継続的に報告されているが、中東以外の国では2013年に英国(計3例)、フランス(計2例)から報告されているのみでいずれも輸入例を発端としていた[7][8]。しかし、2015年5月~7月にかけて、韓国では(うち死亡38例)のMERS症例が報告され(中国で診断された1例を含む)(表<図表>)、サウジアラビア(表<図表>)に次いで2番目の報告数となった。
  1. 最初のMERS確定例は68歳男性で、2015年4月18日~5月3日に中東(バーレーン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタール)に滞在し5月4日に韓国に帰国し、5月11日(帰国7日目)に上気道炎症状を認めた。しかし、この男性は医療機関を受診した際に、渡航歴を適切に伝えておらず、さらに発症してから確定診断がつくまでの10日間に(5月20日に確定診断)計4カ所の医療機関を受診していた。このため、多くの医療従事者や患者らに接触することになり、複数の医療機関でこの男性を発端とした二次感染もしくはそれ以上の感染伝播をもたらすことになり(発端者は直接28例に感染伝播を起こした)、6月8日には6医療機関より計64例が報告され、「持続的なヒト-ヒト感染」の懸念が広がった。
  1. このような状況下、WHOは韓国政府とJoint missionを6月9~13日に実施し、感染拡大の原因について、医療従事者と一般社会におけるMERSに関する知識の欠如、不十分な院内感染対策、混雑した救急外来や多病床の病室でのMERS患者との密接で持続的な接触、ドクターショッピング、多くの見舞客や患者や家族が病室内で感染者と滞在する習慣などを指摘した。また、韓国で分離されたMERS-CoVの遺伝子配列は、中東からの分離株と比較して著しい変異は認めないとして、ウイルス学的にも疫学的にも持続的なヒト-ヒト感染を示す証拠はないとした[9]
  1. 韓国では接触者調査や院内感染対策が強化され、報告数は6月1日をピークとして減少し、最後の新規症例は7月2日に発生した。韓国政府は7月28日に事実上のMERS終息宣言をしたが、10月12日に、MERSから回復し2度MERS-CoV陰性と判定された35歳男性が、発熱し再びMERS-CoV陽性と判定された。11月25日に、韓国政府はこの症例は基礎疾患である悪性リンパ腫治療中の経過が急激に増悪して死亡したと報告した。この症例からの二次感染の報告はなく、12月24日に韓国政府はWHOの基準(最後の陽性患者のウイルス陰性化から28日後を終息宣言とする)に基づき、終息宣言とした。合計で、12例の無症候例を含む186例(前述の再度陽性となった症例は1例として集計)が確定例と確認された。確定例は全て医療機関およびその関連車両などで発生しており、16の医療機関に広がり、隔離対象者となった接触者は計16,693名にのぼった[10]
 
韓国と中国におけるMERSアウトブレイクの流行曲線

MERS-CoVの韓国と中国での感染者数と死亡者数(2015年5月11日~7月2日)。7月2日までに186例が報告された。

出典

[http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/maps-epicurves-20-july-26-july/en/ WHO | Confirmed cases and deaths in Republic of Korea and China 2015年7月22日]
 
  1. 年齢中央値は55歳(範囲:16~87歳)、男性が111例(60%)で、基礎疾患では糖尿病が最多(28%)、次いで悪性疾患(23.1%)であった。医療従事者は39例(21%、死亡例なし)であった。死亡38例(MERSと死亡との因果関係は不明な者を含む、致命率20%)のうち33例(87%)は高齢者、もしくは基礎疾患(悪性腫瘍、心疾患、呼吸器疾患、腎疾患、糖尿病、免疫不全など)を有していた。潜伏期間は6.8日(95%信頼区間:6.3-7.4日)で、患者の95%は発症までに13.5日(95%信頼区間:12.2-14.7日)を、残りの5%の患者は発症までに2.3日(95%信頼区間:2.0-2.5日)を要した。Serial interval (発生源の発症から次の感染者の発症までの間隔)は12.5日(95%信頼区間:11.8-13.2日)であった。スーパースプレッダー(韓国事例では1人で4人以上に感染伝播させた症例と定義)には5例が該当し、感染伝播の83.2%がこの5例との疫学的関連があった。それぞれ、6例、11例、23例、28例、85例に感染伝播を起こした。5例の年齢中央値は41歳(範囲:35-68歳)で、2例のみが基礎疾患(気管支喘息、多発性骨髄腫)を有した[10]
  1. 臨床症状は、発熱138例(74.2%)、筋肉痛47例(25.3%)、咳嗽33例(17.7%)、消化器症状24例(12.9%)、頭痛16例(8.6%)、喀痰14例(7.5%)、呼吸困難10例(5.4%)、咽頭痛8例(4.3%)で、消化器症状が中東からの既報告(20-30%)と比較して頻度が低かった[10]。死亡の危険因子は既存の研究と同様に、高齢と呼吸器疾患を有することで、多変量解析で65歳以上は4.9倍(95%信頼区間:1.9-12.5、p<0.01)、呼吸器疾患は4.9倍(95%信頼区間:1.6-14.7、p<0.01)を示した[10]
  1. 韓国でのアウトブレイク事例において、MERS患者が入院していた部屋の清掃後に、空気、空調設備の排気口、高頻度接触面、物品の表面において、MERS-CoV遺伝子(RT-PCR法による検出)が検出された[11]。一方、韓国の院内感染事例では、接触者調査においてウイルスに汚染された環境表面を介して感染した患者は確認されていない[12]
  1. 韓国でのアウトブレイク事例の報告によれば、重症例の気道分泌液中のウイルス RNA 量は発症 2 週目でピーク(中央値;7.21 log10 copies/ ml)となり、軽症例(5.54 log10copies/ml)に比べて有意に高値を示したとされている[13]。また、ウイルス排泄期間も発症から 21 日まで遷延した。
  1. 2015年のアウトブレイク以降、韓国では報告はなかったが、2018年9月9日に1例に輸入例が報告された[14]。この症例は、8月16日から9月6日まで仕事のためクウェートに渡航した61歳の男性であった。クウェートから韓国に戻った直後に発熱、下痢、呼吸器症状で入院し、隔離され治療を受けた。確定症例はこの1例のみで、アウトブレイクは起きなかった。
 
韓国事例からの教訓:
  1. 2015年の韓国における院内感染拡大の要因として、医療機関での感染予防策の不徹底、混雑した外来や病棟、MERSの診断の遅れ、不十分な接触者調査と隔離などが指摘された[15][16][17][12]
  1. 隣国の先進国であるMERSの感染拡大は、改めて平時からの感染対策徹底の重要性を示した。例えば、急性感染症患者への渡航歴の確認、医療機関での標準予防策の徹底、患者への咳エチケットの指導、感染管理体制の整備、住民へのリスクコミュニケーションなどである。わが国においても、MERSをはじめ、新興感染症に対する対応を今後も定期的に確認することが重要である[18]
 
MERSの臨床的特徴:
  1. 臨床像は、無症状および軽症例からARDSを来す重症例まである。典型的には、発熱、咳嗽、息切れなどの症状から始まり急速に肺炎を発症し、しばしば呼吸器管理が必要となる。呼吸器症状以外には、約30%の患者が嘔吐、下痢などの消化器症状を呈した報告がある。典型的な検査所見では、白血球減少(リンパ球減少)を認め、場合により血小板減少症を認める。重症例ではアミノトランスフェラーゼの中等度上昇を認めることがある[19]。高齢者や免疫低下、腎疾患、悪性腫瘍、肺疾患、糖尿病などの慢性疾患を有する患者はMERS-CoV感染による重症化をしやすい[19]。致命率は30~40%と報告されている。MERSの潜伏期間は2~14日(中央値は5日程度)とされる。致命率は30~40%と報告されている[20]
  1. 2019年6月30日までにWHOに報告された検査確定例(n=2449)のうち、20.8%が無症候、あるいは軽症例、46.5%が重症例、あるいは死亡例であった。
 
各臨床症状の頻度:
  1. 来院時の各症状の頻度の報告として、47人のコホート研究では以下のような頻度での症状の発症が報告されている[20]。ほぼ全例で発熱と胸部X線写真の異常を認め、また多くの症例で咳と息切れを認めている。
  1. 発熱(>38℃) - 46人(98%)
  1. 悪寒と戦慄を伴った発熱 - 41人(87%)
  1. 咳 - 39人(83%)(乾性47%、湿性36%)
  1. 息切れ - 34人(72%)
  1. 血痰 - 8人(17%)
  1. 咽頭痛 - 10人(21%)
  1. 筋肉痛 - 15人(32%)
  1. 下痢 - 12人(26%)
  1. 嘔吐 - 10人(21%)
  1. 腹痛 - 8人(17%)
  1. 胸痛 - 7人(15%)
  1. 頭痛 - 6人(13%)
  1. 鼻炎 - 2人(4%)
  1. 胸部X線写真の異常 - 47人(100%)(重症から軽症まであり)

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
石金正裕 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:大曲貴夫 : 特に申告事項無し[2024年]

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中東呼吸器症候群 (Middle East respiratory syndrome, MERS)

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