今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 羽賀宣博 福岡大学医学部 腎泌尿器外科学講座

監修: 中川昌之 公益財団法人 慈愛会 今村総合病院 泌尿器科顧問

著者校正/監修レビュー済:2025/02/26
参考ガイドライン:
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下について加筆・修正を行った。
  1. 泌尿器外傷診療ガイドライン 2022年版に基づき、一部加筆修正した。
  1. 症例提示を行った。

概要・推奨   

  1. 膀胱外傷を起こしている患者は、他臓器損傷を起こしていることが多い。したがって、全身状態が不良の患者は、膀胱損傷の診断、治療よりも救命を優先させる。
  1. 膀胱造影は造影剤を注入する前、造影剤充満時、造影剤排出後の3枚を必ず撮影する。
  1. CT膀胱造影では、膀胱内に注入する造影剤は、生理食塩水で薄めて使用する(CT画像のハレーションの予防のため)。
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 膀胱は骨盤内に存在するため、外傷から守られた場所にあるが、交通事故や落下などで骨盤骨折を起こした際に、膀胱外傷が発症しうる[1]。また膀胱充満時に下腹部に強い圧迫を受けた際にも、骨盤骨折がなくても発症することがある。その場合、比較的脆弱な膀胱頂部が破裂しやすい。その他、切創や医原性に発症することもある。医原性としては、経尿道的手術、婦人科手術、大腸切除術等の骨盤内手術中に起きやすい。小児では、骨盤骨は発達・成長の途中であるため、成人と比較すると鈍的膀胱損傷を受けやすい[2]
  1. すなわち、膀胱外傷には、外傷などに伴う非医原性膀胱外傷と、手術操作に伴う医原性膀胱外傷に大別される。非医原性膀胱外傷には、原因の7~8割程度は交通外傷などの鈍的外傷が最も多い。また、膀胱外傷の発生部位として、腹膜外破裂、腹膜内破裂、腹膜内外破裂の3つに大別される。腹膜外破裂では、そのほとんどが骨盤骨折と関連しているといわれている[3]
  1. 成人の鈍的膀胱外傷における、骨盤骨折の合併頻度は16〜80%,尿道外傷は15%程度と言われている[3]
  1. 膀胱損傷は尿が腹膜外に溢流するか(<図表>)、腹膜内に溢流するか(<図表><図表><図表>)で分けられる。
  1. 症状は下腹部痛や下腹部の圧痛、排尿困難、肉眼的・顕微鏡的血尿である。
 
腹膜外膀胱損傷

膀胱造影(a、b):造影剤が不規則な形態を示している(矢印)、骨盤骨折も認められる(白矢印)。
CT膀胱造影(c):膀胱損傷のため造影剤が膀胱前腔に存在している(矢印)。

出典

Adam: Grainger & Allison's Diagnostic Radiology, 5th ed.Churchill Livingstone, 2008
 
腹膜内膀胱損傷

膀胱造影:造影剤が腸管の周囲に及び、腸管の形態が描出される(矢印)。膀胱周囲に血腫が存在するため膀胱が圧排されている(H)。また骨盤骨折も認められる(開放矢印)。

出典

Adam: Grainger & Allison's Diagnostic Radiology, 5th ed. Churchill Livingstone, 2008
 
腹膜内膀胱損傷

膀胱造影:造影剤が膀胱から腹膜内に溢流して、右上行結腸の形態を描出している(矢印)。

出典

Adam: Grainger & Allison's Diagnostic Radiology, 5th ed.Churchill Livingstone, 2008
 
腹膜内膀胱損傷

CT膀胱造影:造影剤が腸管周囲に認められる。

出典

Wein: Campbell-Walsh Urology, 10th. ed.Saunders, Philadelphia,2012; P2515, Figure 88–10.
 
  1. 病歴と症状で膀胱外傷が疑われれば、ただちに適切な医療機関に紹介して評価を行うべきである。
  1. 診断は尿道からカテーテルを挿入し造影を行う膀胱造影か、造影剤を膀胱に注入した後にCTを行うCT膀胱造影が診断能力に優れる。
  1. 治療は腹膜外への溢流であれば、留置カテーテルで保存的に経過を観察する。腹膜外溢流でも鈍的損傷で膀胱損傷以外の臓器損傷が疑われれば、膀胱の修復、さらに膀胱以外の損傷部の修復を行う[1][4][5]。切創、腹膜内溢流であればただちに損傷部の修復を行う[1][5]
問診・診察のポイント  
  1. 健常な成人が何の誘因もなく膀胱外への尿溢流を来すことは考えにくく、まず外傷を受けたのか、受けた場合どのような外傷を受けたのか、症状発症時の状況を問診する。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
羽賀宣博 : 講演料(キッセイ薬品工業(株))[2024年]
監修:中川昌之 : 特に申告事項無し[2024年]

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