今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松岡弘文 むらやま泌尿器科クリニック

監修: 中川昌之 公益財団法人 慈愛会 今村総合病院 泌尿器科顧問

著者校正/監修レビュー済:2024/07/24
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)

概要・推奨   

  1. 無痛性(無症候性)陰嚢腫大は、まずエコー検査で陰嚢水瘤を確認する。
  1. エコー検査で陰嚢水瘤であれば、精巣の位置、鼠径部での精巣鞘膜(鞘状突起)の開存、Abdominoscrotal hydroceleの腹腔内成分がないか確認する。
  1. 小児の陰嚢水瘤は自然治癒傾向が強いので、基本的には経過観察する。
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 陰嚢水瘤とは、精巣固有鞘膜腔に漿液が貯留する状態で、漿液貯留が精索内に限局するものは精索水瘤という。
  1. 成因により先天性と後天性に大別する。原因不明に鞘膜腔へ漿液が貯留した特発性もある。
  1. 腹膜鞘状突起の状態が、開存しているものを交通性陰嚢水瘤、閉鎖しているものを非交通性陰嚢水瘤に分ける。
  1. 交通性陰嚢水瘤と鼠径ヘルニアは病態が同じであり、鞘状突起が広く開存していれば鼠径ヘルニアとなる。
  1. 開存した鞘状突起を通って液体のみが精巣鞘膜腔のなかへ移動したときに、交通性陰嚢水瘤がみられる。
 
鞘状突起と陰嚢水瘤の関係

a:正常 b:交通性陰嚢水瘤 c:精索部の鞘状突起の開存(水瘤またはヘルニア) d:精索水瘤
e:Abdominoscrotal hydrocele  (矢印:鞘状突起 曲矢:精巣鞘膜)

 
  1. 思春期(10歳頃)以前では交通性陰嚢水瘤が大部分で、思春期以降では非交通性陰嚢水瘤がほとんどである。
  1. したがって先天性陰嚢水瘤の大部分は交通性陰嚢水瘤と考えられ、特に乳幼児に多く認められる。
  1. 乳幼児期の陰嚢水瘤の特殊型として水瘤が腹部へ及んだAbdominoscrotal hydroceleがある。
  1. 後天性陰嚢水瘤は成人に多く、ほとんどは非交通性陰嚢水瘤として認められる。
  1. 後天性陰嚢水瘤は、炎症、外傷、腫瘍などに伴った症候性の漿液貯留が多いが、原因不明の特発性もある。
  1. 後天性陰嚢水瘤のまれな原因としてフィラリア症に伴うものや腎移植の同側陰嚢に発症するものがある。
 
  1. 小児の陰嚢水瘤;ヘルニア合併例
  1. 主訴:右陰嚢腫大
  1. 病歴:5歳男児。右の陰嚢水瘤として近医小児科より紹介された。
  1. 紹介状に添付された陰嚢部の超音波写真では右陰嚢内に均一な液体成分の貯留を認め、典型的な陰嚢水瘤所見を示していた。
  1. 診察:陰嚢部は右側が対側に比べてやや大きく、精索部の腫大を認めた。
  1. 診断のためのテストとその結果:鼠径部~陰嚢部の超音波検査を施行した。陰嚢内には液体成分の貯留を認めず(図<図表>)、陰嚢上部から鼠径管・内鼠径輪には充実性の内容物が描出された(図<図表>)。腸管のような層構造はなく、やや高エコーであることから大網の脱出と判断した。
  1. 治療:「右交通性陰嚢水瘤+右鼠径ヘルニア」として鼠径部切開にて陰嚢水瘤根治術(鼠径ヘルニア根治術)を施行した。
  1. 転帰:術後再発は認めていない。
  1. コメント:小児の陰嚢水瘤は基本的に交通性と考えるが、ヘルニアが合併しているときには年齢にかかわらず手術適応とする。
 
右陰嚢内容

このときには水瘤は存在せず

出典

福岡大学病院症例
 
右鼠径部

鼠径管内にやや高エコーな充実性腫瘤を認める

出典

福岡大学病院症例
  1. 成人の陰嚢水瘤;穿刺吸引例
  1. 主訴:右陰嚢の無症候性腫大
  1. 病歴:65歳男性。前立腺肥大症で薬物療法中。2カ月ほど前から右陰嚢部の腫大に気づいており、次第に増大するため再診した。自発痛は認めない。
  1. 診察:右陰嚢部に手拳大の腫瘤を認めた。緊満して表面平滑、弾性軟で波動のある腫瘤を触れた。腫瘤内部には透光性が認められた。
  1. 診断のためのテストとその結果:陰嚢部の超音波検査を施行した。陰嚢内は均一な液体成分が多量に充満していた。精巣・精巣上体は正常に描出され、腫瘍性成分やその他異常な所見は認めなかった。
  1. 治療:患者は陰嚢部の腫大が不快であるため治療を選択したが、なるべく低侵襲であることを希望したため穿刺吸引を行うことにした。エコー下に充実性部分のないことを確認して、18G血管内留置針を穿刺、内針を抜去して外筒のみ残し、延長チューブに注射器を連結して内容液を吸引した。黄色透明な液体が260ml吸引された。
  1. 転帰:吸引された液体は細胞診に提出し、Papanicolaou class Ⅰであった。
  1. 右陰嚢腫大はその後も繰り返し、年間2回ほど穿刺・吸引を行い、3年ほど経過した。
  1. コメント:成人の陰嚢水瘤は、腫瘍性に続発したものでなければ、患者の症状により適宜治療する。本症例は、穿刺吸引の間隔が短く、治療が頻繁になるか、または本人の希望があれば開放手術へ移行する予定である。
 
  1. 乳児の陰嚢水瘤;自然消失例
  1. 主訴:左陰嚢腫大
  1. 病歴:6カ月の男児。
  1. 生下時より左の陰嚢が大きいことに気づいていた。サイズの変化がないため生後6カ月の時点で当科を初診した。
  1. 診察:左の陰嚢は小鶏卵大に腫大。比較的柔らかく波動を認めた。ペンライトを後方から当てると透光性が認められた。
  1. 診断のためのテストとその結果:リニア型プローブを使って陰嚢部のエコー検査を施行。
  1. 陰嚢内は均一な液体成分の貯留を認めた(図<図表>)。液体以外の構成成分は認めなかった。精巣は左右ともサイズ・性状とも正常形態で陰嚢内底部に観察できた。
  1. 治療:なし(経過観察のみ)。
  1. 転帰:3カ月ごとの再診を指示した。生後9カ月目には若干の縮小を認めるのみであったが、満1歳時の再診ではほとんどが消失、陰嚢部エコー検査でも精巣周囲にごくわずかに液体成分が描出されるのみであった。1歳3カ月時には完全に消失し、以後再発もないため1歳半で終診とした。
  1. コメント:乳児の陰嚢水瘤は自然消失が期待できる。ヘルニアの合併がなければ経過観察する。
 
  1. 乳児の陰嚢水瘤;手術移行例
  1. 主訴:右陰嚢腫大
  1. 病歴:1歳半男児。
  1. 生下時より右の陰嚢腫大を認めていた。腫大サイズには日内変動や数日ごとの変化がみられていたが、正常化することはなかったため近医小児科より紹介初診となった。
  1. 診察:右陰嚢は鶏卵大に腫大し、緊満しているが硬くはなく、波動を認めた。
  1. 診断のためのテストとその結果:リニア型プローブを使って陰嚢部のエコー検査を施行。
  1. 右陰嚢内には均一な液体成分の貯留を認めた。精巣は陰嚢内底部に正常に認めた(図<図表>)。
  1. 治療:経過観察後に手術(鼠径部切開にて陰嚢水瘤根治術施行)。
  1. 転帰:3カ月ごとの経過観察を行った。経時的に右陰嚢腫大サイズの変動を繰り返したが、3歳になっても鶏卵大の腫瘤には変化はなかった。
3歳時の超音波検査でも陰嚢内の水瘤と、鼠径管内につながる開存所見を認めた(図<図表>)。
そのため両親と相談のうえ、鼠径部アプローチによる陰嚢水瘤根治術を行った。
  1. コメント:3歳まで待って、比較的大きな陰嚢水瘤が残存し、患者(この場合は両親)が治療を希望した場合には手術(鼠径部切開にて陰嚢水瘤根治術施行)を行う。
  1. 小児の陰嚢水瘤は基本的に交通性と考えるべきであるので、穿刺・吸引を行ってはならない。
 
右陰嚢内超音波所見

均一・低エコーな液体成分の貯留を認める
底部には正常精巣を描出

出典

福岡大学病院症例
 
鼠径部超音波所見

陰嚢上部から鼠径管に開存を認める

出典

福岡大学病院症例
 
  1. Abdominoscrotal hydrocele
  1. 主訴:右陰嚢腫大
  1. 病歴:6歳男児。
  1. 2歳頃から右陰嚢腫大を認めていた。5歳時になっても改善しないため紹介初診となった。
  1. 診察:右陰嚢は鶏卵大に腫大してやや緊満し、圧迫すると右下腹部に波動を認めた。
  1. 診断のためのテストとその結果:リニア型プローブを使って陰嚢部のエコー検査を施行。
  1. 右陰嚢内には均一な液体成分の貯留を認めた。精巣は陰嚢内底部に正常に認めた。頭側へ移動すると水瘤は外鼠径輪辺りで終了しているかに思えたが、右内鼠径輪上の右下腹部に腹部成分を認めた(図<図表>) 。
MRI検査を追加施行。
  1. 右陰嚢内と右下腹部にダンベル状に水瘤を認めた(図<図表>)。
  1. 治療:検査終了後に手術施行(腹部成分に対して腹腔鏡補助下に開始したが、鼠径部切開創から後腹膜腔の水瘤のすべてを切除可能で、陰嚢内成分の処理も完了した)。
  1. 転帰:2年間観察したが再発はない。
  1. コメント:Abdominoscrotal hydrocele は精巣や尿路の圧迫の報告もあるため診断とともに手術介入とした。手術法に関しては腹腔鏡を利用したものや、鼠径部切開のみのものなどの報告がある[1]
 
超音波検査(数枚を重ねて合成した)

出典

福岡大学病院症例
 
MRI検査

ダンベル状に水瘤を認める。

出典

福岡大学病院症例
 
問診・診察のポイント  
  1. 陰嚢水瘤のほとんどは無症候性で、陰嚢の無痛性の腫大を主訴とする。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松岡弘文 : 未申告[2024年]
監修:中川昌之 : 特に申告事項無し[2024年]

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陰のう水瘤(陰のう水腫)

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