今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松橋信行 総合東京病院 消化器疾患センター

監修: 上村直実 国立健康危機管理研究機構 国府台医療センター

著者校正/監修レビュー済:2024/02/21
参考ガイドライン:
  1. 日本消化管学会(編):便通異常症診療ガイドライン2023 慢性便秘症
  1. American Gastroenterological Association-American College of Gastroenterology Clinical Practice Guideline: Pharmacological Management of Chronic Idiopathic Constipation
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 日本消化管学会編集の「便通異常症診療ガイドライン2023 慢性便秘症」に基づき、加筆修正した。
  1. 2023年発表の米国の2つの消化器病学会の共同によるガイドラインである「American Gastroenterological Association-American College of Gastroenterology Clinical Practice Guideline: Pharmacological Management of Chronic Idiopathic Constipation」を参考にした。
  1. 便秘及び慢性便秘症の定義を見直した。
  1. 診断治療のフローチャートを掲載した。
  1. 慢性便秘症の診断、病態評価における体外式超音波検査、放射線不透過マーカー及びMRI/CTの有用性を記載した。
  1. 胆汁酸トランスポーター阻害薬と末梢性µオピオイド受容体拮抗薬についての記述を追加した。
  1. 予後に関して追記した。慢性便秘症は心血管疾患、パーキンソン病、腎疾患、認知症などのリスクとの関連が示されており(Sumida K, et al. Atherosclerosis. 2019 Feb;281:114-120. 、Yang Z, et al. Neurology. 2023 Apr 18;100(16):e1702-e1711.、Adams-Carr KL, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016 Jul;87(7):710-6.)、長期予後に関連する可能性があるが、大腸癌発生への関与は不明である。

概要・推奨   

診断
ポイント
  1. 高齢者の便秘では、大腸癌 の除外をまず念頭におくこと。
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病態・疫学・診察 

疫学・病態・予後  
定義:
  1. 便秘とは、本来体外に排出排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状態・硬便、排便回数の減少や、糞便を十分量かつ快適に排出排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態をいう。
  1. 慢性的に続く便秘のため日常生活や身体に様々な支障を来す病態を慢性便秘症と定義する。便秘であってもそのような支障がなければ便秘症とはしない(“便秘”は状態名、“便秘症”は疾患名である)。
  1. 機能性便秘症と便秘型過敏性腸症候群は連続したスペクトラムであり明確に鑑別することは困難である。
 
疫学:
  1. 便秘症患者は非常に多く、慢性便秘症の有病率はおよそ10~15%と見積もられる。
  1. 女性のほうが多いが男女とも加齢とともに便秘有病率は増加し、70歳以上では性差がなくなっていく。
  1. 慢性便秘症の背景因子・発症リスクとしては性別(女性)、加齢、身体活動性の低下、不規則ないし偏った食生活、便所の構造(排便姿勢)、排便を我慢する習慣、過剰な厚着や暖房、諸種の薬剤、基礎疾患(精神神経疾患など多種)、腹部手術歴などがある。
 
病態:
  1. 日本消化管学会のガイドラインでは慢性便秘症を図のように分類している[1]
 
慢性便秘症の分類

出典

「日本消化管学会編:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症,p.5,2023,南江堂」より許諾を得て転載.
 
  1. これからわかるように、慢性便秘症は単一の疾患ではなく種々の病態を内包した疾患概念である。
  1. 慢性便秘症の原因は多岐にわたる。明らかな原因のない一次性のほか、二次性として薬剤性、他の全身性疾患に伴う症候性、器質性などがある。
  1. 症状からは排便回数減少型と排便困難型に分類する。
  1. 病態からは大腸通過正常型(便の大腸通過時間が延長していないもの。旧分類での痙攣性便秘と重なる)、大腸通過遅延型(便の大腸通過時間が延長しているもの。旧分類での弛緩性便秘と重なる)、便排出障害に分類する。
  1. 女性の便秘では大腸蠕動の低下による大腸通過遅延型が多い。
  1. 高齢者では直腸肛門の機能低下による排便困難型が多くなる。
  1. 特に、高齢化の進展に伴い多種の薬剤を常用する例が増えた結果、副作用としての薬剤性便秘便秘症が多くなっていることに注意する(ポリファーマシー)。
  1. 慢性便秘症では腸内細菌叢のバランスに変化があることが示されている。
 
予後:
  1. 慢性便秘症はQOLを低下させる[2]
  1. まれに腸穿孔を合併することもある。
  1. 慢性便秘症は心血管疾患、パーキンソン病、腎疾患、認知症などのリスクとの関連が示されており[3][4][5]、長期予後に関連する可能性があるが、大腸癌発生への関与は不明である。
  1. 治療に反応することが多いが、排便が薬剤依存性になることもある。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松橋信行 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:上村直実 : 講演料(武田薬品工業(株),大塚製薬(株))[2024年]

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