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著者: 森本耕三1) 公益財団法人結核予防会 複十字病院呼吸器センター / 臨床医学研究科、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 抗酸菌感染症学講座

著者: 長谷川直樹2) 慶應義塾大学医学部 感染症学教室・特定非営利活動法人非結核抗酸菌症研究コンソーシアム(NTM-JRC)

監修: 藤田次郎 琉球大学名誉教授、おもと会グループ特別顧問

著者校正済:2025/01/29
現在監修レビュー中
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 『成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂』の発表に伴いレビューを行った。
  1. 肺MAC症の治療において、空洞なし(重症除く)では、CAM+EB+RFPの連日投与だけでなく、週3日の間欠的治療が推奨された。

概要・推奨   

  1. 塗抹陽性、有空洞例では、積極的な治療開始を行うことが推奨される。
  1. 肺MAC症では、有空洞や重症の結節・気管支拡張型の症例では、治療初期からアミノグリコシドの併用を行うことが推奨される。
  1. 肺MAC症では、6カ月間以上培養陽性が持続する症例では吸入リポソーマルアミカシン混濁液の吸入またはアミノグリコシド系薬の追加を検討することが推奨される。
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  1. 難治例、クラリスロマイシン耐性例、M. abscessus症例の治療は専門医へコンサルトを行うことが推奨される。
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)の診断には2007年に米国胸部学会/米国感染症学会が発表したステートメント[1]をもとに、2008年に日本呼吸器学会/日本結核病学会が定めた指針[2]が用いられている。本疾患を示唆する画像所見に加え、喀痰培養検査で複数回、菌を検出することがポイントである。なお、2020年には新たに米国胸部学会/米国感染症学会/欧州臨床微生物感染症学会/欧州呼吸器学会から臨床診療ガイドライン(以下国際ガイドライン)[3]が公表されている。
 
肺NTM症の診断基準:
  1. 下記臨床的基準と細菌学的基準をともに満たす場合に肺NTM症と診断する。
  1. 臨床的基準(以下の2項目を満たす):
  1. 肺部画像所見(HRCTを含む)で、
  1. 結節性陰影、小結節性陰影や分岐状陰影の散布
  1. 均等性陰影、空洞性陰影
  1. 気管支または細気管支拡張所見のいずれか(複数可)を示す。ただし、先行肺疾患による陰影がすでにある場合にはこの限りではない。
  1. 他の疾患を除外できる。
  1. 細菌学的基準(菌種の区別なく、以下のいずれか1項目を満たす):
  1. 2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性(間隔を問わない)。
  1. 1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。
  1. 経気管支肺生検または肺生検組織の場合には、抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織、または気管支洗浄液、または喀痰での1回以上の培養陽性。
  1. まれな菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合には、検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし、記載の確認を必要とする。
  1. 解説:非結核性抗酸菌は結核菌と同じ抗酸菌に属するが、水系、土壌などの環境に生息している。ヒトからヒトへは感染しないとされるが、感染と発病の関係は結核のように明らかにされておらず、誰が感染し、感染者のうちどのくらいの者が、感染後どのくらいの時間を経て発病するのか明らかではない。通常、呼吸器感染症を惹起し、画像所見は多彩であるが比較的均一な臨床像を呈する。診断には症状の有無は問わず、胸部CTや胸部単純X線写真に陰影を認め、喀痰検査で複数回同一菌を検出することが重要である。国際ガイドラインでは、症状有りを診断基準としている点がわが国と異なる。無症状例でも約16%に空洞が認められたこと、治療内容、培養陰性化率や再発率、さらに自然培養陰性化率も、診断時の症状有無では差異がなかったことが報告されており、画像、喀痰検査による管理が妥当である。診断されても治療開始時期については個別に判断する。自然経過も十分に解明されていないが、塗抹陽性、画像所見が進行性に増悪するもの、空洞を有するものには多剤併用による化学療法を行うことが推奨される。一方で、無症状例で塗抹陰性、さらに画像も軽度な結節気管支拡張症例では、watchful waiting(注意深い観察)が許容される。治療期間も明確にされていないが一般的には排菌陰性化が達成されてから1年とされるが、さらに長い治療期間が必要であるという報告が複数ある。
 
NTMの感染源は?
  1. NTMは土壌や水系の常在菌であり、誰もが日常生活で曝露されているので、感染源は環境にあると考えることは妥当であろう。実際に水道管やシャワーヘッド・土壌などに存在する菌が感染源になるとの報告がある。過去の報告より浴室の掃除を定期的に行うこと、土壌曝露の頻度を減少させる指導は許容されると考える。
  1. ヒトからヒトへの感染については呼吸器系の日和見感染を容易に起こす嚢胞性線維症(cystic fibrosis )専門クリニック内で同一遺伝子型による感染が報告されている。しかし、直接的なヒトからヒトへの感染は確認されておらず、否定的な報告も散見される。また、家族性に発症した肺MAC症の検討でもヒトからヒトへの感染は証明されていない[4][5][6]
  1. NTMの感染源が身近な環境であることが指摘されている。例えば、肺MAC症の患者より検出された菌と遺伝情報の相同性が高い菌が自宅の水道管、シャワーヘッド、土壌などから検出され、環境菌が感染源になる可能性が指摘されている。これは環境中に生存するNTMがエアロゾル化し経気道的に感染する可能性を示唆する。一方、NTMは水道水1 L中に107個存在することや、消毒薬への感受性が低く、酸性環境にも強いこと(肺MAC症の患者は高率(19.8%)に逆流性食道炎を合併すること)も指摘されている[7][8][9][10][11][12]
  1. これは、いったん飲料水として摂取された水に含まれるNTMが、胃食道の逆流を経て、気道系に誤飲されて感染する可能性を示唆する。一方、逆流性食道炎の合併頻度はアジアでは低く、手洗いや飲料水を沸騰させてから使用する、などの習慣がNTMのcolonizationの頻度の違いを生み出す可能性も指摘されている。以上より、患者の感染源は身近な環境である可能性は高く、自宅の炊事場、洗濯場、浴室などの乾燥しにくい部位の掃除と乾燥に留意することを患者に勧めることは生活指導として重要であろう[13][14]
  1. また今後これらの環境と人からの検出菌についての詳細な検討により、その臨床像がさらに明らかにされてゆくことが期待される。
 
毒力の強い菌がいるのか?
  1. 基本的にNTMは弱毒菌であり、ヒトへの病原性は低い。今のところMAC菌が産生する明らかな障害性因子は発見されていない。また感染しやすい菌や、病原性の強い株の特徴についても研究が進められているが詳細は不明である。
  1. 現在、病状や病勢と関連する菌側の因子について研究が進められているが、最近は、菌の細胞への侵入に関与する菌体成分も報告されている。一方、MAC症の持続感染にはMAC菌がホストの免疫反応の活性化と抑制のバランスを保ちながら、免疫機構から逃れてホストの中で持続的に生存することが重要である。現在、MAC菌においては明らかな組織障害因子は発見されていないが、このような視点からは、ホスト細胞を傷害するのではなく、ホスト細胞と共存し続けることがNTMの病原性とも考えられる[15][16]
  1. 菊池らは、確定診断された肺MAC症患者を一定期間経過観察し、病状が進行した例と進行しなかった例から採取された菌株のVNTRによるクラスター解析を行った。臨床経過によりクラスター形成を認め、感染症の増悪と関連する菌側因子の存在が示唆されたが、その後、韓国の追試では同様の結果は得られなかった。また従来 M. aviumM. intracellulareはMACと総称されてきたが、M. avium感染症よりもM. intracellulare感染症のほうが重症化しやすいことを示唆する報告もある[17][18][19]
 
肺非結核性抗酸菌症の疫学
  1. 肺NTM症はヒトからヒトに感染しないため公衆衛生学的に注目度が低く、報告義務が課されている国、地域はほとんどない。また、かつて固形培地が用いられていた時代の診断基準は環境常在菌であるために、複数回の菌検出を要するだけでなく、菌量要件が付帯し、さらにその基準が菌種や病態により異なるというきわめて複雑なものであったために疫学調査にも不適であった。その後、結核を含む抗酸菌検査に液体培地が使用されるようになったが、同培養法ではコロニーの目視ができないために定量が不可能であり、それを踏まえて2007年にATS/IDSAから細菌学的基準が簡素化された診断基準が発表された。
  1. 新たな基準では肺NTM症については、相当する病変を胸部画像検査で認め、喀痰から2回培養陽性になることが条件とされた。また、気管支鏡検査で得られた検体については洗浄液で培養陽性であれば1回で診断確定とされた。その後は本診断基準が国際的に共通の診断基準として普及した。一方、診断基準の簡素化により複数の培養陽性をよりどころに疫学的解析が可能になった。この手法を用いた疫学調査がオレゴン州で実施され、その妥当性が確立され広く用いられることとなった[20][21]
  1. 肺NTM症は結核のような届出(報告)制がないこと、診断基準は臨床(画像)や菌の基準を満たす必要があることなどから正確な疫学情報を得ることは困難である。しかし、わが国では1970年代から束村らが中心となり国療研究班による疫学調査が行われてきた歴史がある。罹患率は、一定期間に診断されたNTM/結核比と結核の統計で得られる活動性結核罹患率の積から求められた。本手法は長期継続され、さらに施設数を拡大して非定型抗酸菌症研究協議会、AMED研究班へと受け継がれた。2014年に同様の手法を用いて行われた全国調査の結果[22]、罹患率は14.7/10万人と菌陽性結核の罹患率をはじめて上回ったことが明らかにされた。この報告は、40年以上に渡る推移を示し、さらに世界的にも高い罹患率であることを明らかとした[23]
  1. さらに、肺NTM症の疫学解析として、主要検査会社の11万件を超える抗酸菌データ(2012~13年)の解析が行われ、期間有病率は西日本で高いこと、菌種ごとの地域差が明らかであること(MACのうちM. intracellulareは西日本に高く、M. aviumは東日本で高い。M. kansasiiは近畿地方で高く、M. abscessus speciesは九州沖縄地方で高い)などが示された[24]。この、大手検査センターの抗酸菌データを用いる手法が継続され、2017年罹患率は19.2/10万と上昇傾向が持続していること、菌種割合は、M. abscessus species がM. kansasiiをはじめて超えたことが明らかとなった[25]
問診・診察のポイント  
  1. 肺NTM症は健診などで画像により偶然に発見され、自覚症状を認めない例もあるが、喀痰、咳嗽、息切れ、または普段は自覚症状を認めなくても血痰を自覚する場合がある。経過の長い慢性疾患であるが、進行性に増悪し呼吸不全に至る例もあり、以下の点に留意する。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
森本耕三 : 講演料(インスメッド合同会社,日本ベーリンガーインゲルハイム(株)),原稿料(インスメッド合同会社)[2025年]
長谷川直樹 : 講演料(インスメッド合同会社),研究費・助成金など(ヤンセンファーマ(株),インスメッド合同会社)[2025年]
監修:藤田次郎 : 講演料(塩野義製薬(株),MSD(株),ギリアド・サイエンシズ(株))[2025年]

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