今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 尾田琢也 おだこどもアレルギークリニック

監修: 野口善令 豊田地域医療センター 総合診療科

著者校正/監修レビュー済:2024/03/06
参考ガイドライン:
  1. 欧州内分泌学会のManagement of adrenal incidentalomas:European Society of Endocrinology Clinical Practice Guideline in collaboration with the European Network for the Study of Adrenal Tumors
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)。

概要・推奨   

  1. 無症候性副腎腫瘤、または、副腎偶発腫(adrenal incidentaloma)とは画像検査で偶然にみつかった症状のない副腎腫瘤を指す
  1. 副腎偶発腫の多くは、非機能性で良性の副腎皮質由来の腺腫であるが、機能性(ホルモン産生性)、悪性のものもみられる。
  1. 副腎偶発腫をみたときは、機能性、悪性の可能性の評価を行う(推奨度1
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病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
  1. 無症候性副腎腫瘤は、副腎偶発腫(adrenal incidentaloma)とも呼ばれ、副腎疾患以外の評価目的で行われた画像検査で偶然にみつかった径が1cm以上の症状のない副腎腫瘤をいう[1]
  1. 剖検例の6%(1~32%)[1][2]、腹部CT検査の4%程度[3]でみられ、年齢とともに増加する。約75%の副腎腫瘤は、非機能性で良性の副腎皮質由来の腺腫である。12%がサブクリニカルクッシング症候群、7.0%が褐色細胞腫、2.5%がアルドステロン症、8.0%が副腎皮質癌、5.0%が転移性腫瘍である[4]
  1. 副腎偶発腫をみたときは、機能性かどうか、悪性の可能性があるかどうかに注意を払い、以下の疾患を考慮する。
 
  1. サブクリニカルクッシング症候群:典型的な副腎皮質機能亢進の症状や徴候がないが、コルチゾールの自動分泌がみられるものをさす。クッシング症候群の典型的な像は呈さないが、高血圧、肥満、糖尿病、骨粗鬆症がみられることがある。副腎偶発腫の12%にコルチゾールの自動分泌があったという報告があり[4]、副腎偶発腫の全例で一晩1mgデキサメタゾン抑制試験が必要である。一晩1mgデキサメタゾン抑制試験で翌朝8時のコルチゾール値が5μg/dL以上であれば、自動分泌能ありと判断される[5][6]。カットオフ値は議論中であるが、臨床的に意義のあるグルココルチコイドの自動分泌能の基準として5μg/dLが妥当と考えられている。検査特異度は91%[7][8]であるため、異常な結果が出た場合は、偽陽性を除外するために確定診断が必要である。1.8~5.0μg/dLの場合は、慎重に経過をフォローアップするか、副腎性サブクリニカルクッシング症候群新診断基準診断アルゴリズムを参考に精査を行う。血漿ACTH、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)、尿中遊離コルチゾールが測定されることがある。血漿ACTHの抑制、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)の抑制、尿中遊離コルチゾールが基準値の4倍以上がコルチゾールの過剰分泌を示唆する[9]。副腎偶発腫の診断後、4年以上の経過観察中にコルチゾールの自動分泌が確認されたという報告が少なくとも2つ[10][11]あるため、4年間は毎年、コルチゾールの過剰分泌があるかどうか内分泌検査を施行するように勧められることが多い。
 
副腎性サブクリニカルクッシング症候群新診断基準 診断アルゴリズム

CS:クッシング症候群
DST:1mg dexamethasone抑制試験、数字は血中コルチゾール値(μg/dL)
ACTH分泌抑制:血中ACTH<10pg/mLまたはCRH負荷に対する低反応(<1.5倍)
日内リズム消失:21~24時血中コルチゾール≧5μg/dL

出典

日本内分泌学会、日本ステロイドホルモン学会:「副腎性サブクリニカルクッシング症候群新診断基準」の作成と解説 日本内分泌学会雑誌 93巻 Suppl. September 2017 p.18
 
  1. 副腎偶発腫の精査でサブクリニカルクッシング症候群と診断された場合は、腹腔鏡下での副腎切除術が勧められる(推奨度2R(参考文献:[12]
  1. サブクリニカルクッシング症候群の患者の治療方針として外科的治療を行うか、経過観察するかどうかに関しての前向き比較試験が1つある。25年の期間で、サブクリニカルクッシング症候群の患者45人を無作為に手術群23人、経過観察群22人に割り付けた。外科的手術はすべて同一術者により腹腔鏡下で施行された。経験のある内分泌科医師により術後6カ月後と12カ月後に、その後は年1回、中央値で7.7年間(2~17年間)観察された。手術群では、糖尿病患者の62.5%、高血圧患者の67%、脂質異常症の37.5%、肥満患者の50%で疾患が正常化または改善した。骨粗鬆症患者の骨マーカーは変化なかった。一方、経過観察群では、糖尿病、高血圧、脂質異常症が悪化したものがいた。
 
  1. 無症候性褐色細胞腫:副腎偶発腫の7.0%を占める[4]。褐色細胞腫の58%は副腎偶発腫から診断され、19人中に10人にしか高血圧がみられなかったとする報告がある[13]。無症候性の褐色細胞腫であっても致死的となることがあるので注意が必要である。褐色細胞腫かどうかについては、副腎偶発腫の画像的特徴が参考になる。単純CT検査での吸収値上昇、造影CT検査での豊富な血流、造影剤のwash-out遅延、T2強調MRIで高信号を呈するなどが特徴である。すべての褐色細胞腫がこのような画像所見をとるわけではないので、副腎偶発腫の全例で内分泌検査が必要である。24時間蓄尿におけるメタネフリン分画およびカテコラミンの測定が推奨される。感度・特異度とも高く、91~98%と報告されている[14][15][16]。基準値上限のおおよそ3倍以上で疑い、確定診断が必要である。蓄尿検査を行う前に随時尿でのスクリーニングも有用である。随時尿メタネフリンもしくはノルメタネフリンが500ng/mgCrを超える場合は、褐色細胞腫の可能性が高い[17]
  1. 原発性アルドステロン症:副腎偶発腫の2.5%を占める[4]。アルドステロンの過剰分泌は心血管系疾患のリスクを増加させる。副腎偶発腫の患者で高血圧や低カリウム血症がある場合は、アルドステロンの過剰分泌があるかどうかを調べる必要がある。スクリーニングとして血清K値は参考にならない。早朝座位での血漿アルドステロン(ng/dL)/レニン活性(ng/mL/時)>20かつ血漿アルドステロン>15ng/dLであれば、確定診断が必要である。
  1. 悪性かどうかの判断に関しては、腫瘤径と腫瘤の画像的特徴の2つが主要な予測因子となる。副腎偶発腫のうち、副腎皮質癌と転移性副腎腫瘍が占めるのは、それぞれ8.0%、5.0%であったという報告がある[4]
  1. 腫瘤径:径が4cmを超えれば、副腎皮質癌の感度は90%であるが、特異度は24%と低い[18]。4cm未満の副腎皮質癌も報告[19]されているため、絶対的に安全な腫瘍径のカットオフ値は存在しない。良性の無症候性副腎腫瘤が40歳未満で発症することはまれであるため、この年齢層なら4cm未満であっても癌の可能性を検討する必要がある[20]。径が6cmを超えるものは切除を勧める専門家が多い[21]が、手術に関しては、腫瘤の画像的特徴、年齢、合併症などを考慮して判断する必要がある。腫瘍径を計測する際に重要なことは、三次元で最大径を評価することである。二次元の断面のみで計測すると過小評価することが多い[20]
  1. 画像的特徴:腺腫であれば、脂質に富むことが多いため、単純CT検査で低吸収となる[22]。既知の悪性腫瘍がない場合は、単純CT検査での吸収値が10Hounsfield単位以下であれば良性である[23]。ただし、30%の腺腫はそれほど脂質を含まず、単純CT検査で非腺腫と鑑別することは難しい。腺腫では、造影CT検査で造影剤の早期wash-outがみられる[24]。造影剤投与10分後のwash-out率が40~60%を超える場合、副腎癌、褐色細胞腫、転移性腫瘍の患者と比較して、腺腫の感度・特異度が100%であったという報告がある[22][24]
  1. ケミカルシフトMRI検査の逆位相において信号低下がみられれば、腺腫の可能性が高い。18F-FDG PET-CT副腎画像のSUVmaxや副腎/脾SUVmax比もしくは副腎/肝臓SUVmax比が良性悪性の鑑別に利用できる。
  1. 副腎皮質癌:副腎偶発腫の8.0%である[4]。まれだが、予後は不良である。初診時の腫瘍ステージと根治的切除が可能かどうかにより長期生存率が決まる。2/3は機能性であり、過剰ホルモンによる症状が出る。
  1. 転移性腫瘍:悪性腫瘍の病歴がある患者の約半数では、転移性腫瘍である[25]。この場合は、両側性のことが多い。原発巣として、肺、腎、大腸、乳腺、食道、膵、肝臓、胃が多く[26]、転移性副腎腫瘍が原発巣より先にみつかることはきわめてまれである[27]
  1. 微細針生検:細胞診では、副腎癌と腺腫の区別は困難であり、生検の目的は腫瘤が副腎組織かそうでないかを区別することである[28][29][30]。褐色細胞腫であった場合は、出血や高血圧緊急症などの合併症が起こり得るので、生検前に血液検査で褐色細胞腫を除外する必要がある[31][32]。転移性腫瘍や感染か疑われる場合は、褐色細胞腫を除外して、微細針生検を検討する。
  1. 両側副腎腫瘤:副腎偶発腫の15%でみられる[18][10]。原発性両側性大結節性副腎過形成、副腎腺腫、両側性褐色細胞腫、先天性副腎皮質過形成、クッシング病もしくは異所性ACTH分泌による両側性副腎皮質過形成、転移性腫瘍、原発性腫瘍、副腎骨髄脂肪腫、感染、出血、グルココルチコイド抵抗症などが鑑別疾患として挙がる[20]
  1. 副腎偶発腫のフォローアップについて、適切な頻度や期間ははっきりしていない。通常は、6カ月後、12カ月後、24カ月後の画像検査が推奨される。悪性腫瘍であれば、3カ月で増大することが多いので、画像所見から悪性が疑われる場合は、3カ月後など、より早期のフォローアップが妥当かもしれない[33]。最初の検査に異常がなくても、その後に異常となることがあるので、最初の4年間は年に1回、カテコラミンとコルチゾールの過剰分泌があるかどうか内分泌検査を施行するように勧められている[21]。経過中にアルドステロン症と診断されたという報告はないため、アルドステロン症のスクリーニングは不要である。
問診・診察のポイント  
  1. 副腎機能亢進症や悪性疾患を示唆する症状や所見に焦点を絞って病歴聴取、身体所見をとる[33]
 
問診:
  1. クッシング症候群:体重増加、中心性肥満、満月様顔貌、水牛様脂肪沈着、皮下出血、皮膚脆弱・菲薄化、創傷治癒遷延、赤紫色皮膚線条、近位筋筋力低下、感情や認知機能の変化(イライラ、感情失禁、抑うつ気分、落ち着きのなさ)、日和見感染、真菌感染、性機能障害、ざ瘡、多毛症
  1. 褐色細胞腫:動悸、顔面蒼白、振戦、発汗、失神。症状は発作的にみられることもある。安静時や、姿勢変化、不安、薬剤(例:メトクロプラミド、麻酔薬)、腹圧を増加させる運動(姿勢変化、重いものを持ち上げる作業、排便、運動、大腸内視鏡検査、妊娠、外傷)などを契機に生じる。
  1. 原発性アルドステロン症:低カリウム血症があれば、夜間尿、多尿、筋けいれん、動悸
  1. 副腎皮質癌:腫瘍そのものによる圧迫症状(腹痛など)、コルチゾール分泌過剰症状(クッシング症候群)、アンドロゲン過剰症状(多毛症、ざ瘡、無月経や過少月経、脂ぎった皮膚、リビドー亢進)、エストロゲン過剰症状(女性化乳房など)、アルドステロン過剰症状(低カリウム血症に関連した症状)
  1. 転移性腫瘍:副腎以外の悪性腫瘍の病歴
 
診察:
  1. クッシング症候群:高血圧、骨塩減少、骨粗鬆症、食後高血糖、糖尿病、低カリウム血症、脂質異常症、白血球増多、リンパ球減少
  1. 褐色細胞腫:高血圧(一時的のことも持続的のこともある)、起立性低血圧、顔面蒼白、網膜症、振戦、発熱
  1. 原発性アルドステロン症:高血圧症、低カリウム血症、軽度の高ナトリウム血症
  1. 副腎皮質癌:高血圧、骨塩減少、骨粗鬆症、食後高血糖、糖尿病、低カリウム血症、脂質異常症、白血球増多、リンパ球減少
  1. 転移性腫瘍:各悪性腫瘍に特異的な所見
 
鑑別疾患表
機能性腫瘍
  1. 腺腫(アルドステロンまたはコルチゾール)

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
尾田琢也 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:野口善令 : 特に申告事項無し[2024年]

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無症候性副腎腫瘤

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