今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 川嶋乃里子 かわしま神経内科クリニック

監修: 高橋裕秀 昭和大学藤が丘病院 脳神経内科

著者校正/監修レビュー済:2024/10/02
参考ガイドライン:
  1. Treatment of restless legs syndrome: Evidence-based review and implications for clinical practice (revised 2017). Mov Disord 2018; 33(7):1077-1091.
  1. Guidelines for the first-line treatment of restless legs syndrome/Willis-Ekbom disease, prevention and treatment of dopaminergic augmentation: a combined task force of the IRLSSG, EURLSSG, and the RLS-foundation. Sleep Med [Internet]. 2016 May [cited 2019 May 10];21:1–11.
  1. Restless legs syndrome/Willis-Ekbom disease diagnostic criteria: updated International Restless Legs Syndrome Study Group (IRLSSG) consensus criteria--history, rationale, description, and significance. Sleep Med [Internet]. 2014 Aug [cited 2016 May 3];15(8):860–73.
  1. Practice guideline summary: Treatment of restless legs syndrome in adults: Report of the Guideline Development, Dissemination, and Implementation Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurol. 2016 Dec 13;87(24):2585-2593.
  1. Silber MH, Buchfuhrer MJ, Earley CJ, Koo BB, Manconi M, Winkelman JW, et al. The Management of Restless Legs Syndrome: An Updated Algorithm. Mayo Clin Proc. 2021 Jul;96(7):1921–37.
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 最近のRLSの病態モデル仮説では、脳内鉄の減少がドパミン系と侵害受容系の機能障害を生じ、アデノシン系とグルタミン系を変化させるとされている(文献29)。
  1. 慢性持続性RLSには、augmentationの発症を避けるために、α2δカルシウムチャネルリガンドを先に使うべきであるという治療アルゴリズムが新たに出された(文献30)。

概要・推奨   

  1. すべてのRestless legs syndrome(RLS)患者で、血清フェリチンとトランスフェリチン飽和度を測定し、低値であれば鉄補充が勧められる(推奨度1)
  1. 薬物治療が必要な中等度以上のRLSの症状の軽減にプラミペキソールは有効である(推奨度2)
  1. 薬物治療が必要な中等度以上のRLSの症状軽減にロチゴチンは有効である(推奨度2)
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 下肢静止不能症候群(restless legs syndrome、RLS)は、1685年にWillisにより初めて症例報告され、1945年にEkbomがRLSとして疾患概念を確立し命名した[1]。別名「むずむず脚症候群」とも呼ばれ、夕方から深夜にかけて、下肢を中心として、「ムズムズする」「痛がゆい」「じっとしていると非常に不快」といった異常な感覚が出現し不眠などの状態を来す疾患である。RLSの21~57%には上肢にも症状がある。「冷感」は一般的ではない。
  1. 有病率は、欧米では約10%前後といわれてきたが、最近の欧州5カ国と米国の大規模疫学調査では、過去1年間のRLS症状は7.2%にみられ、中等度以上の患者は約2.7%、70歳代まで年齢とともに増加していく。アジア諸国では少なく、週2回以上症状がある例に限ると、欧米では1.5~3.0%、日本では約1%といわれている。 女性が多く、男性の約1.5倍である。
  1. なお、下肢つりの鑑別方法については、別項「 下肢つり 」の項を参考にしてほしい。
 
  1. RLSの病態は十分解明されていない。
  1. まとめ、代表事例の説明:家族歴のあるRLS患者の連鎖解析では、RLS1からRLS5まで報告がある[2]。ゲノムワイド関連解析では、RLS発症のリスクのある19の遺伝子座が報告されている[2][3][4]。MEIS1が最も強い遺伝リスク因子であり[4]、鉄代謝に関与しており[5]、ノックアウトマウスでドパミン系と関連していることが示唆されている[2]。病理および経頭蓋超音波での黒質の鉄の減少が報告されている[6][7]。D3ノックアウトマウスでは、A11ドパミン神経(視床下部から脊髄の間質核交感神経節前線維に抑制性入力)の障害による交感神経活動亢進の関連が示唆されている[8]
  1. 結論:病態には、遺伝的素因、鉄代謝とドパミン受容体異常が関連しているが、十分には解明されていない。
 
RLSに関連する神経系領域

MRI、PET、超音波、病理などでは、図のような領域がRLSの病態に関与していることが示されており、これらの部位が病因、二次的現象、代償などのレベルでネットワークを形成していると考えられている。

出典

Trenkwalder C, Paulus W.
Restless legs syndrome: pathophysiology, clinical presentation and management.
Nat Rev Neurol. 2010 Jun;6(6):337-46. doi: 10.1038/nrneurol.2010.55.
Abstract/Text Restless legs syndrome (RLS) is a somatosensory network disorder that is clinically diagnosed according to four main criteria: an urge to move the legs, usually associated with unpleasant leg sensations; induction or exacerbation of symptoms by rest; symptom relief on activity; and diurnal fluctuations in symptoms with worsening in the evening and at night. Genetic variants in four chromosomal regions have been identified that increase the risk of RLS. In addition, various different lesions, ranging from peripheral neuropathies to spinal cord lesions or alterations of brain metabolism, are implicated in RLS. In most cases, sleep disorders with frequent sleep fragmentation and characteristic periodic limb movements during sleep can be identified during a polysomnographic recording. The first-line drugs for RLS are dopaminergic agents, which are effective in low to moderate doses. Alternative or additional treatments include opioids and anticonvulsants. Augmentation-paradoxical worsening of symptoms by dopaminergic treatment-is the main problem encountered in difficult-to-treat patients. Iron deficiency must be identified and treated by supplementation, both to improve RLS symptoms and to potentially lower the risk of augmentation. Here, we review the latest studies pertaining to the pathophysiology, clinical presentation and management of RLS.

PMID 20531433
 
RLSの病態モデル仮説

まとめ:①脳内鉄の欠乏の関与が重視されている。②RLS患者ではシナプス前ドパミンは過剰な状態で、シナプス後D2受容体のダウンレギュレーションが生じ、夜間にドパミン欠乏が生じるため、夜間に症状増悪が起きると考えることができる。ドパミンアゴニストは、ラットではグルタミンの放出をブロックすることが知られている。A11ドパミン神経も関与しているかも知れないが、人の剖検脳では異常が見つかっていない。動物モデルや人で、脳内鉄欠乏が線条体ドパミン機能を変化させていることが示唆されている。③脳内鉄欠乏と高グルタミン作動状態の関連がいくつかの研究で示唆されており、シナプス前グルタミン放出を抑制するα2δカルシウムチャネルリガンドは症状軽減に効果がある。げっ歯類では、鉄欠乏はグルタミン系皮質線条体路終末を過敏にするかも知れない。④脳内鉄欠乏はアデノシンA1受容体のダウンレギュレーションを生じ、低アデノシン作動状態となり、高グルタミン作動状態や線条体のアデノシン-ドパミン-グルタミンのバランス障害を生じるかもしれない。

出典

Manconi M, Garcia-Borreguero D, Schormair B, Videnovic A, Berger K, Ferri R, Dauvilliers Y.
Restless legs syndrome.
Nat Rev Dis Primers. 2021 Nov 3;7(1):80. doi: 10.1038/s41572-021-00311-z. Epub 2021 Nov 3.
Abstract/Text Restless legs syndrome (RLS) is a common sensorimotor disorder characterized by an urge to move that appears during rest or is exacerbated by rest, that occurs in the evening or night and that disappears during movement or is improved by movement. Symptoms vary considerably in age at onset, frequency and severity, with severe forms affecting sleep, quality of life and mood. Patients with RLS often display periodic leg movements during sleep or resting wakefulness. RLS is considered to be a complex condition in which predisposing genetic factors, environmental factors and comorbidities contribute to the expression of the disorder. RLS occurs alone or with comorbidities, for example, iron deficiency and kidney disease, but also with cardiovascular diseases, diabetes mellitus and neurological, rheumatological and respiratory disorders. The pathophysiology is still unclear, with the involvement of brain iron deficiency, dysfunction in the dopaminergic and nociceptive systems and altered adenosine and glutamatergic pathways as hypotheses being investigated. RLS is poorly recognized by physicians and it is accordingly often incorrectly diagnosed and managed. Treatment guidelines recommend initiation of therapy with low doses of dopamine agonists or α2δ ligands in severe forms. Although dopaminergic treatment is initially highly effective, its long-term use can result in a serious worsening of symptoms known as augmentation. Other treatments include opioids and iron preparations.

© 2021. Springer Nature Limited.
PMID 34732752
 
  1. RLSの有病率は週2回以上症状がある例に限ると、欧米では1.5%から3.0%[9][10]、日本では約1%といわれている[11]
  1. まとめ、代表事例の説明:小児期から高齢者までみられる疾患で、70歳代まで、年齢とともに増加していく。女性に多く、男性の約1.5倍である[12]。特発性RLSの患者の約40%に家族歴がみられる。未治療では、15,391例中に睡眠障害75.5%、日中の機能低下55.5%が認められ、疼痛88.0%、気分障害26.2%を伴い、生活の質が低下する[12]
  1. 結論:RLSはまれな疾患ではなく、放置すると生活の質が低下する場合は、治療を開始すべきである。
  1. 追記:人種による差があり、軽度の患者も含めれば欧米では約10%[12]、日本では約2~3%といわれている。
問診・診察のポイント  
  1. 診断基準[13](下記)に沿って問診する。
  1. 初診時の診断:図アルゴリズム

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オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
川嶋乃里子 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:高橋裕秀 : 特に申告事項無し[2024年]

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Restless legs syndrome(下肢静止不能症候群)

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