今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松浦誠 岩手医科大学 薬学部 臨床薬学講座 地域医療薬学分野

監修: 中原 保裕 (有)ファーマシューティカルケア研究所

著者校正/監修レビュー済:2022/07/06
参考ガイドライン:
  1. 日本うつ病学会:うつ病治療ガイドライン第2版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、薬剤選択のポイントについて加筆修正を行った。

概要・推奨   

  1. 軽症うつ病においては、抗うつ薬における治療効果の差はわずかであるため、どの薬剤から開始してもよいが、忍容性の面から選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRIノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSAなどの新規抗うつ薬の使用が推奨される。
  1. うつ病の薬物療法は単剤投与が基本であり、効果判定までに6~8週間の投与が必要である。
  1. 新規の作用機序をもつ治療薬としてボルチオキセチン臭化水素酸塩錠が追加となった。
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総論 

うつ病の薬物療法  
  1. うつ病に用いられる薬剤として、三環系抗うつ薬(TCA)、四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)などが存在する。
  1. SSRIはうつ病、不安障害にも適応を持つが、SNRIの適応はうつ病が主であり、不安障害への適応はない。
  1. SNRIは下行性痛覚抑制系の賦活による疼痛抑制作用があり、神経障害性疼痛や心因性疼痛に有効性を認めている。
 
薬物療法の効果:
  1. 抗うつ効果の発現には通常2~4週間要するが、確実な効果判定のためには6~8週間後に継続するか、別の薬に切り替えるかを判断する。
  1. SSRIでは12週間後まで治療率は上昇する。
  1. Papakostasらによる臨床現場における薬物療法のメタ解析によると、全般有効率はプライマリケアで三環系抗うつ薬64%、四環系抗うつ薬 65%、SSRI 54%、精神科現場ではそれぞれ52%、62%、47%であったという。SNRIのほうがSSRIより効果の点でやや優れるという解析や、SSRIであるセルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)を第1選択薬として提案するCiprianiらによるメタ解析(MANGA study)もあるが、総じては安全性や忍容性から、SSRI、SNRI、NaSSAなどなどの新規抗うつ薬を推奨するガイドラインが多い。
  1. 家族、既往で効果がある薬剤があれば、それを用いることが望ましい。また、あるSSRIで治療を開始し、もし効果を認めない場合は、別のSSRIを用いることで今度は効果を認めることもある。
  1. また、治療抵抗性のうつ病には 抗精神病薬 を用いることもある。
  1. 治療薬の効果が認められた場合であっても、うつ病症状が改善し、落ち着くまでには数カ月から1年近くの時間を要する。
 
非定型抗精神病薬による、治療抵抗性大うつ病性障害の寛解率に関するメタアナリシス

出典

J Craig Nelson, George I Papakostas
Atypical antipsychotic augmentation in major depressive disorder: a meta-analysis of placebo-controlled randomized trials.
Am J Psychiatry. 2009 Sep;166(9):980-91. doi: 10.1176/appi.ajp.2009.09030312. Epub 2009 Aug 17.
Abstract/Text OBJECTIVE: The authors sought to determine by meta-analysis the efficacy and tolerability of adjunctive atypical antipsychotic agents in major depressive disorder.
METHOD: Searches were conducted of MEDLINE/PubMed (1966 to January 2009), the Cochrane database, abstracts of major psychiatric meetings since 2000, and online trial registries. Manufacturers of atypical antipsychotic agents without online registries were contacted. Trials selected were acute-phase, parallel-group, double-blind controlled trials with random assignment to adjunctive atypical antipsychotic or placebo. Patients had nonpsychotic unipolar major depressive disorder that was resistant to prior antidepressant treatment. Response, remission, and discontinuation rates were either reported or obtained. Data were extracted by one author and checked by the second. Data included study design, number of patients, patient characteristics, methods of establishing treatment resistance, drug doses, duration of the adjunctive trial, depression scale used, response and remission rates, and discontinuation rates for any reason or for adverse events.
RESULTS: Sixteen trials with 3,480 patients were pooled using a fixed-effects meta-analysis. Adjunctive atypical antipsychotics were significantly more effective than placebo (response: odds ratio=1.69, 95% CI=1.46-1.95, z=7.00, N=16, p<0.00001; remission: odds ratio=2.00, 95% CI=1.69-2.37, z=8.03, N=16, p<0.00001). Mean odds ratios did not differ among the atypical agents and were not affected by trial duration or method of establishing treatment resistance. Discontinuation rates for adverse events were higher for atypical agents than for placebo (odds ratio=3.91, 95% CI=2.68-5.72, z=7.05, N=15, p<0.00001).
CONCLUSIONS: Atypical antipsychotics are effective augmentation agents in major depressive disorder but are associated with an increased risk of discontinuation due to adverse events.

PMID 19687129
 
薬物療法の副作用:
  1. SSRIは三環系坑うつ薬に対して抗コリン作用(便秘、口渇、めまい、振戦、霧視)や心血管系の副作用(QT延長、起立性低血圧など)が少ないが、逆に5HT3刺激による消化器症状(食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛、下痢)や5HT2刺激による性機能障害(性欲低下、勃起不全)などは多い。
  1. 四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬と比較すると、総じて効果が弱くその分副作用も弱いといわれている。
  1. SNRIは緑内障・前立腺肥大などの悪化を起こす懸念があるが、性欲減少の副作用を望まない患者にはよい選択となる。
  1. 抗うつ薬服用歴のある日本人うつ病・うつ状態患者(平均年齢48.2歳)300人を対象に2008年に実施された上島によるインターネット調査によると、抗うつ薬に期待することとして「副作用がない/少ない/安全性が高い」が152人で、「確実に効く/しっかり効く/症状が安定する」と回答した82人をはるかに上回っており、長期間内服する抗うつ薬の副作用に対処することの重要性が示唆されている[1]
  1. なお、抗うつ薬の使用に対して自殺との関連が指摘されている。ある研究では、自殺関連行動(焦燥感、希死念慮、自殺企図)がプラセボに比較して増加するとの研究がある(プラセボ0.57% SSRI 1.53%)。
 
抗うつ薬(三環系): >詳細情報 
  1. 三環系抗うつ薬は、シナプス間隙でのセロトニンやノルアドレナリンなどの再取り込みを阻害し、シナプス間隙での神経伝達をスムーズにすることで抗うつ作用を発揮する。
  1. 三環系抗うつ薬に属する薬剤として、クロミプラミン(アナフラニール)、ロフェプラミン(アンプリット)、トリミプラミン(スルモンチール)、イミプラミン(トフラニール、イミドール)、アモキサピン(アモキサン)、アミトリプチリン(トリプタノール)、ノルトリプチリン(ノリトレン)、ドスレピン(プロチアデン)などが知られている。
  1. 三環系抗うつ薬は、意欲亢進、気分明朗化、鎮静作用を発揮する。いくつかの研究でSSRIと比較し効果が高いとの結果が出ている。抗コリン作用による副作用が臨床で問題となることが多い。
  1. 過量服薬での死亡危険性が高い。主な症状は心毒性、昏睡、痙攣である。
 
抗うつ薬(四環系): >詳細情報 
  1. 四環系抗うつ薬は、三環系と同様にシナプス間隙でのセロトニンやノルアドレナリンなどの再取り込みを阻害し、シナプス間隙での神経伝達をスムーズにすることで抗うつ作用を発揮する。
  1. 四環系抗うつ薬に属する薬剤として、マプロチリン(ルジオミール)、ミアンセリン(テトラミド)、セチプチリン(テシプール)などが知られている。
  1. 三環系にみられる抗コリン作用による副作用は少ないが、眠気の副作用が強い(鎮静作用)。
  1. 三環系を用いていて抗コリン作用による副作用が問題になったケースに用いられる。
 
抗うつ薬(SSRI): >詳細情報 
  1. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、セロトニンの再取り込みを阻害することで抗うつ作用を発揮する薬剤である。現在、抗うつ薬として最もよく用いられている薬である。
  1. SSRIに属する薬剤として、フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)などが知られている。
  1. 効果は三環系、四環系、SNRIよりも弱いとの報告もあるが、副作用の点で他より優れているため第1選択薬として最もよく用いられている。
  1. 過量服用時の安全性が高い一方、CYP阻害による薬物相互作用には注意が必要である。
  1. 増量時の賦活症候群や減薬や中断による離脱症候群に注意が必要。
  1. SSRI内での同効薬の使い分けに関しては、薬物相互作用・副作用に基づいて行うことが多い。セルトラリン(ジェイゾロフト)・エスシタロプラム(レクサプロ)は、CYPの阻害作用も少ないため、薬剤相互作用・副作用がともに少ない薬剤であり効果的で忍容性に優れた薬剤である。
 
抗うつ薬(SNRI): >詳細情報 
  1. セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、副作用発現を考慮しつつSSRIより効力を向上させた薬である。
  1. SNRIに属する薬剤として、ミルナシプラン(トレドミン)、デュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサー)などが知られている。
  1. SSRIよりも治療効果は向上しているとの報告がある。
  1. 他の抗うつ薬に比べて作用発現が早く、服用後1週間以内に症状改善が期待できる。
  1. 緑内障・前立腺肥大などの悪化を起こす懸念があるが、性欲減少の副作用を望まない患者にはよい選択となる。
 
抗うつ薬(NaSSA): >詳細情報 
  1. ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)は、前シナプスα2自己受容体およびヘテロ受容体の遮断薬として作用し、セロトニンやノルアドレナリンの遊離を促進し、シナプス間隙における神経伝達をスムーズにさせることで抗うつ作用を発揮する。
  1. 抗うつ薬(NaSSA)に属する薬剤として、ミルタザピン(リフレックス、レメロン)などが知られている。
  1. 他の薬剤よりは効果発現は早い。ただし、効果発現まで1週間位かかる。
 
抗うつ薬(その他): >詳細情報 
  1. タンドスピロン(セディール)、トラゾドン(レスリン、デジレル)は、セロトニンの再取り込みを阻害し、同時にセロトニン受容体遮断作用によりセロトニンの量を増やして神経の伝達をスムーズにさせる。副作用は少ない薬剤である。
  1. トラゾドン(レスリン、デジレル)は、不眠を改善する効果があるため、不眠の症状を認める患者には考慮してもよい。
  1. ボルチオキセチン臭化水素酸塩(トリンテリックス)はセロトニン再取り込み阻害作用ならびに複数の5HT受容体に作用し、モノアミンやアセチルコリンを調節する新しいタイプの抗うつ薬として2019年11月に発売された。
 
薬剤の変更・中止:
  1. なお、SSRI服用中に効果が不十分の時などで他のSSRIに変更を必要とする場合は、等力価の薬剤に変更をする方法か、現在使っている薬剤を1~2週間かけて徐々にテーパリングオフしながら新しい薬剤をテーパリングオンしていく方法がある。SSRIの退薬症状を新しいSSRIが防いでくれるため、これらの方法のどちらでも、問題がないことが多い。なお等力価の薬剤の目安は以下のようになっている。
  1. 等価の薬物用量
  1. フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)100mg
  1. パロキセチン(パキシル)20mg
  1. セルトラリン(ジェイゾロフト)50~75mg
  1. エスシタロプラム(レクサプロ)10mg
  1. SSRIからSNRIや三環系抗うつ薬に変更する場合は、現在使っている薬剤をテーパリングオフしながら、新しい薬剤をテーパリングオンしていくことがよく行われる。ただし、フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)、パロキセチン(パキシル)が主にCYP2D6で代謝され、CYP1A2、CYP2C19の強力な阻害作用を認めるため、新しい薬剤がそれらの酵素で代謝を受ける場合には少量から徐々に増加することに留意する。
  1. なお、SSRI、SNRIを中止する際には、1週間以上かけて上記の半分の量ずつ減量し(パロキセチンでは10mg)、上記の半分から1/4の量(パロキセチンでは5~10mg)になった時点で中止を考慮する。三環系抗うつ薬(TCA)、四環系抗うつ薬は1カ月程度かけて徐々に減量していく。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松浦誠 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:中原 保裕 : 原稿料(学研)[2024年]

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抗うつ薬(薬理)

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