今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 花岡正幸 信州大学 学術研究院医学系医学部内科学第一教室

監修: 久保惠嗣 信州大学名誉教授

著者校正/監修レビュー済:2024/11/27
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下について加筆・修正した。
  1. 鑑別疾患にCOVID-19を追加した。
  1. 治療に横隔膜縫合(縫縮)術を追加した。

概要・推奨   

  1. 胸部画像検査にて横隔膜挙上を認めた場合、横隔膜神経⿇痺を疑う。
  1. 深吸気位と深呼気位で胸部X線写真(正面像)を撮影し、横隔膜位置に差がない場合、横隔膜神経⿇痺と臨床診断する(推奨度1)
  1. 呼吸不全や換気障害を評価し、⼊院や治療の適応を判断する(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 横隔膜神経麻痺は、片側麻痺と両側麻痺に分けられる。
  1. 片側麻痺の約半数は無症状で、ほとんどが麻痺に対する治療を必要としない。
  1. 重症例ではII型呼吸不全や拘束性換気障害を呈する。
 
右横隔膜神経麻痺

右頚部の手術操作による右横隔膜神経麻痺のため、右横隔膜が挙上している。

出典

From Flint PW, ed: Cummings Otolaryngology: Head & Neck Surgery, 5th ed.Elsevier, Philadelphia, 2010.
 
左横隔膜神経麻痺

左肺門部肺癌(胸部CT)による左横隔膜神経麻痺のため、左横隔膜が挙上している(胸部X線写真)。
a:胸部X線写真
b:胸部CT

出典

著者提供
 
  1. 典型的症例集:症例1(参考文献:[1]
  1. 病歴:70歳代の男性。Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群に対し、血管カテーテルによる高周波アブレーション治療を受けた。退院後より、特に体動時や臥位にて増強する息切れを自覚したため、数日後に再診した。
  1. 診察:胸部打診上、左肺底部で濁音を認め、同部の聴診では、呼吸音が減弱している。心音は清で、腹部に異常所見なし。
  1. 診断のためのテストとその結果:胸部X線写真上、左横隔膜の拳上を認め(<図表>)、X線透視では左横隔膜の呼吸性移動が消失していた。スパイロメトリーでは、混合性換気障害と機能的残気量の減少を認め、これらは臥位で顕著であった。横隔膜神経刺激試験では、左横隔膜の反応が消失していた。以上より、カテーテルアブレーション治療に合併した、左横隔膜神経麻痺と診断した。
  1. 治療:気管支拡張薬投与により、経過観察とした。
  1. 転帰:1年後には自覚症状が消失し、左横隔膜神経の回復を認めた。
  1. コメント:片側の横隔膜神経麻痺は無症状のことも多く、過小評価される場合がある。手術手技、穿刺手技、カテーテル手技などに合併した横隔膜神経麻痺は、自然回復する場合もある。
 
胸部X線写真 左横隔膜神経麻痺

左横隔膜の拳上を認める。

出典

M J Rumbak, S K Chokshi, N Abel, W Abel, P K Kittusamy, J McCormack, M M Patel, H Fontanet
Left phrenic nerve paresis complicating catheter radiofrequency ablation for Wolff-Parkinson-White syndrome.
Am Heart J. 1996 Dec;132(6):1281-5.
Abstract/Text
PMID 8969585
 
  1. 両側麻痺は、呼吸困難や起座呼吸を呈し、呼吸不全に対する人工呼吸管理を必要とすることが多い。
 
両側横隔膜神経麻痺

前縦隔腫瘍摘除術の際、巻き込まれていた両側横隔膜神経をやむを得ず切断した。手術後に両側横隔膜の挙上を認める。
a:手術前
b:手術後

出典

著者提供
 
  1. 典型的症例集:症例2(参考文献:[2]
  1. 病歴:50歳代の女性。4カ月の経過で進行した呼吸困難のため受診した。6カ月前に上気道炎に罹患し、両上肢の疼痛と四肢近位筋の筋力低下が出現した。2カ月で疼痛は改善したが、その後から呼吸困難を自覚するようになった。
  1. 診察:発熱なし。経皮的動脈血酸素飽和度96%(室内気吸入下)。胸部の視診および聴診は異常なし。上肢近位筋の徒手筋力テスト4/5。筋萎縮は認めない。
  1. 診断のためのテストとその結果:胸部X線写真上、右側優位の横隔膜挙上を認めた(<図表>)。肺機能検査(スパイロメトリー)では、努力肺活量、1秒量、全肺気量、予備呼気量の減少を認めた。さらに、最大吸気圧および最大呼気圧の著明な低下を認めた。横隔膜神経刺激試験では、右横隔膜活動電位30 mV、左横隔膜活動電位100 mV(正常160~500 mV)と低下を認め、両側横隔膜神経の軸索障害が示唆された。以上より、神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy)による両側横隔膜神経麻痺と診断した。
  1. 治療:1年の経過観察の後、右横隔膜縫合(縫縮)術を施行した。
  1. 転帰:運動耐容能は改善したが、呼吸機能に有意な変化は認めなかった。
  1. コメント:横隔膜縫合(縫縮)術は、原因疾患と経過を考慮し、適応を判断すること。
 
胸部X線写真 両側横隔膜神経麻痺

右側優位の横隔膜挙上を認める。

出典

Meena Kalluri, John T Huggins, Charlie Strange
A 56-year-old woman with arm pain, dyspnea, and an elevated diaphragm.
Chest. 2008 Jan;133(1):296-9. doi: 10.1378/chest.07-0721.
Abstract/Text
PMID 18187758
 
  1. 横隔膜神経麻痺の原因は、肺や縦隔の悪性腫瘍の浸潤や、胸部や頚部の手術侵襲・カテーテル治療によることが多い。
問診・診察のポイント  
  1. 胸部や頚部の悪性腫瘍の症候を確認する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
花岡正幸 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:久保惠嗣 : 特に申告事項無し[2024年]

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横隔膜神経麻痺

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