今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 徳永昭輝 とくなが女性クリニック

監修: 金山尚裕 静岡医療科学専門大学校

著者校正/監修レビュー済:2020/10/01
参考ガイドライン:
  1. 日本産科婦人科学会日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン産科編2020
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 分娩第1期潜伏期が遷延しているかどうかの判断は難しいことが多く、産婦人科診療ガイドライン産科編2020に基づき確認を行った。 

概要・推奨   

  1. 分娩第1期(潜伏期)で分娩進行が遅延している場合は、母体・胎児の状態を観察しながら基本的には待機的管理を行う(推奨レベルC)。
  1. 人工破膜は、内診で児頭の固定を確認後に行う(推奨レベルB)。
  1. 陣痛促進剤による陣痛促進を行う場合には、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」のCQ415-1、415-2 および415-3を順守する(推奨レベルA)。

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 分娩の遷延は、分娩第1期では全分娩の3~4%、分娩第2期では全分娩の約8%といわれている[1]
  1. 分娩が遷延している場合には、母児の安全のために原因を早期に発見することが求められる。
  1. 分娩第1期の遷延は潜伏期が遷延した偽分娩のことも少なくない。分娩が始まっていないと考えられる場合には帰宅させることもある。
  1. 一般に、有効陣痛は子宮の頸管が3~4cm以上開大(活動期:active phase)すると発来し、頸管開大と児頭の骨盤腔への下降が始まる。
  1. 分娩の遷延とは、陣痛周期が10分以内になった時点から、初産婦では30時間、経産婦では15時間経過しても児娩出に至らない場合である[2]
  1. 一般的にわが国の産科施設では、Friedmanによる分娩進行図(Friedman曲線;分娩開始から時間経過と子宮口開大度と児頭下降度の標準的な関係をグラフにしたもの <図表>)を分娩進行の評価としてきた[3][4]
 
分娩第1期;潜伏期における対応
  1. 最近では、平均的な分娩進行はFriedman曲線で予測される時間より長い経過を辿るとの報告も見られ[5][6]、分娩の進行状態から性急な帝王切開を避けるとのACOG/SMFMコンセンサスも公表されている[7]
  1. パルトグラム(分娩経過図)とFriedman曲線を比較することで分娩経過の異常の有無を判断できるが、分娩経過には個人差があり、分娩第1期潜伏期(latent phase)が遷延しているか否かを判断することが難しい場合も多い。
  1. 潜伏期では、母児の健康に異常を認めなければ、遷延していても病的意義は少ないと判断し、定期的な母体のバイタル測定や胎児心拍モニタリングを行いつつ、基本的には待機的な管理とする[7]。ACOG/SMFMコンセンサスでは、子宮頸管開大6cm未満までを潜伏期と考え、ゆっくりであっても分娩の進行を認めれば、待機的な管理を行うとしている[7]。また、水分摂取・食事摂取・睡眠が可能であれば,母体の休養・精神的サポートに努める[8]
  1. 医療介入:
  1. 潜伏期が遷延し母体が疲労することもあるため、子宮収縮薬を使用して積極的に分娩進行を促進することもある。
  1. 子宮内感染が示唆されるなどの迅速な対応が求められる産婦では、子宮収縮薬の使用や急速遂娩を検討する。
  1. 医療従事者による産婦の精神的サポートは、産痛の緩和や子宮収縮薬による陣痛促進剤使用率の減少、帝王切開や吸引・鉗子分娩率の減少に寄与するとともに、児のApgarスコア5分値が上るなど経腟分娩を完遂するうえできわめて有効である[8]
  1. 助産師などによる産婦の精神的サポートは分娩の予後がよくなると報告されている。
 
陣痛による痛みのために水分摂取・食事摂取・睡眠異常が見られる潜伏期における対応
  1. 分娩予後に悪影響を及ぼす可能性がある。脱水による血栓症発症の予防に努める。
  1. 脱水・エネルギー不足が微弱陣痛の原因となるか否かについての十分なエビデンスはないが、水分摂取は遷延分娩回避に重要であると考えられている[9]
  1. この時点で、帝王切開の予測は困難であるが、帝王切開の可能性について考慮し、経口水分摂取を進めるか輸液をするか考慮した選択が求められる。
 
分娩第1期の活動期(Active phase)における分娩進行が遷延した場合の医療介入:
  1. 分娩経過の異常と判断する場合には、分娩の3要素(陣痛-微弱陣痛、産道の異常-児頭骨盤不均衡(CPD)、頚管熟化不全、娩出物の異常-胎位・回旋胎勢の異常、巨大児など)などからその原因を総合的に判断する必要がある。
  1. ~どの時点で子宮収縮薬を開始するかといった統一見解はない~
  1. ①活動期以降の陣痛の回数が10分間に3回未満となった時点[8]で使用する、②2時間で子宮口開大1cm/時間以下、2時間分娩進行が無かったら[10]使用する、といった意見がある。
  1. 子宮収縮薬による陣痛促進時には、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」のCQ415-1、415-2及び415-3を遵守する。
  1. 【順守すべき留意点[11]
  1. 文書による説明と同意を得る(CQ415-1)
  1. 子宮収縮薬2剤を同時使用しない(CQ415-1、表2)
  1. 開始投与速度、増量法、ならびに最高投与速度に関して例外を設けない(CQ415-1、表3、4)
  1. 母体の血圧と脈拍数を適宜(原則2時間ごと)評価する(CQ415-2)
  1. 原則として投与開始まえから分娩監視装置を装着し、子宮収縮・胎児心拍数を連続的に記録する(CQ415-2)。
  1. トイレ歩行時など医師が必要と認めた時には、一時的に分娩監視装置を外すことは可能である(CQ410)。
  1. 「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」[12]では、微弱陣痛が原因と考えられる遷延分娩への対応について解説している。
  1. 医療介入(人工破膜、陣痛促進、産科手術:吸引分娩、鉗子分娩、帝王切開)をする場合、母児の状態並びに産婦人科医の技術や経験を基に判断すべきである。
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 陣痛が規則的になった時期(陣痛周期が10分以内)を確認する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
徳永昭輝 : 未申告[2024年]
監修:金山尚裕 : 特に申告事項無し[2024年]

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分娩遷延

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