今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 今川記恵1) 県立広島大学 コミュニケーション障害学コース

著者: 櫻井結華2) 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座

監修: 森山寛1) 東京慈恵会医科大学附属病院

監修: 小島博己2) 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科

著者校正/監修レビュー済:2024/03/21
参考ガイドライン:
  1. 日本口蓋裂学会:口唇裂・口蓋裂の診療ガイドライン 2022
  1. Intercollegiate Stroke Working Party(2023). National Clinical Guideline for Stroke for the United Kingdom and Ireland
  1. 日本頭頸部癌学会:頭頸部癌診療ガイドライン 第2022年度版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 構音障害を合併しやすい遺伝子疾患、症候群を追記した。
  1. 構音障害の種類・動態・構音発達などを含め、小児の構音障害の評価と診断をより詳細に解説した。
  1. 構音検査を最新版に改編した。

概要・推奨   

  1. 小児:器質性(口蓋裂、舌小帯短縮症など)構音障害、機能性構音障害、 成人:運動障害性(神経筋疾患に伴う)、器質性(口腔がん術後などに伴う)、その他聴覚障害に起因する構音障害などに大きく分類される。
  1. 口唇口蓋裂、粘膜下口蓋裂、先天性鼻咽腔閉鎖不全症では、外科的治療を行っている専門科(形成外科、口腔外科など)に、術後の言語評価は言語聴覚士に紹介する。耳鼻咽喉科においては聴覚管理を行う(推奨度2)
  1. 難聴や発達障害を伴わない機能性構音障害については、訓練適応を判断し言語聴覚士へ紹介する(推奨度2)
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病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
  1. 構音とは、声帯で生成された音声(喉頭原音)を口唇や舌などの発声発語器官を操作し、母音や子音などの語音(言語音)を産出することである。構音器官の形態的・機能的異常により、産出される言語音が誤っている状態を構音障害と呼ぶ。
  1. 構音障害は、語音の省略、置換、歪みとして聴取される。
  1. 構音障害は原因により、器質性構音障害、運動障害性構音障害(dysarthriaディサースリア)、機能性構音障害に分類される。
  1. 器質性構音障害とは構音器官の形態異常に起因する構音障害であり、小児では口唇口蓋裂、舌小帯短縮症などの先天性形態異常 (<図表>,<図表>,<図表>)、成人では口腔・咽頭癌の切除・再建後(<図表>)に多く認められる。
  1. 運動障害性構音障害とは構音に関係する運動支配神経の中枢、核、末梢神経の疾患に基づく構音器官の麻痺や不随意運動によって生じる構音障害である。原因として、脳血管障害( 脳出血 、 脳梗塞 )が圧倒的に多く、その他変性疾患( パーキンソン病 、 筋萎縮性側索硬化症 、 多系統萎縮症 )(<図表>)、頭部外傷、下位脳神経麻痺(<図表>, <図表>)、炎症性疾患、脳腫瘍、中毒、代謝障害などでみられる。※実際には、運動障害性構音障害では純粋な構音のみならず、イントネーション、リズム、ストレスなどのプロソディーの異常も含めて考えることが一般的である。
  1. 話す機能は障害されているが、言語の理解が正常である点が  失語症 とは異なる。
  1. 機能性構音障害とは構音器官に形態異常や運動障害がなく、構音獲得の遅れや誤った構音習慣によって起こる障害であり、ほとんどが小児期に発症する。
 
小児の器質性構音障害(推奨度2)[1]
  1. 口唇裂・口蓋裂の場合、超音波による画像診断で出生前から診断されることが多い。粘膜下口蓋裂の場合、ことばの不明瞭さに気づくまでに時間がかかり、診断が遅れることもある。
  1. 先天性鼻咽腔閉鎖(機能)不全症や舌小帯短縮症等も器質性構音障害に分類される。
  1. 口唇裂・口蓋裂の臨床においては、家族への心理的援助も含め、産科や小児科、形成外科や歯科、耳鼻咽喉科、言語聴覚士、看護師などとのチームアプローチが重要である。
  1. 口唇裂・口蓋裂への耳鼻咽喉科の役割は耳鼻科疾患の治療およびきこえの管理である。
  1. 口蓋裂に合併する難聴の代表例は滲出性中耳炎である。
  1. 口蓋裂は顎顔面の成長に伴い構音器官が変化するため、長期的な評価と指導/言語管理が必要である。
 
小児の機能性構音障害(推奨度2)[2]
  1. 「発音がはっきりしない」「カ行、サ行が言えない」などという訴えが多い。
  1. 構音器官の運動の稚劣さ、語音弁別能や環境の問題などにより、発達過程で構音の獲得が遅れたり、音が誤って学習されたもの(<図表>)。
  1. 聴覚障害による構音障害を鑑別するため、積極的に聴力検査を行う。
  1. 構音の誤りには省略、置換、歪みがある(<図表>,<図表>)。省略から置換、さらに目標音に近い歪みを経て、最終的に正しい音が獲得される。
  1. ときに構音の誤りには、口蓋化構音、側音化構音、鼻咽腔構音、声門破裂音などの発達途上に見られない構音障害がある(いわゆる異常構音)(<図表>)。
  1. 言語環境に問題がある場合もあり、養育者の観察や他の発達歴の聴取も行う。
  1. 未熟な構音の場合、経過観察を行う。訓練の開始は、ケースの言語発達を評価し、各音の構音完成年齢を参考にして<図表>行う。通常、課題の指示が理解できる(1対1での訓練体勢が整う)4~5歳ころから訓練を行う。
  1. 構音検査の結果に基づき、誤り音・誤り方に応じて、音→音節→単語→文→文章→会話と段階的に訓練を進める系統的構音訓練を行う。
  1. 発達途上に見られる構音の誤り<図表>、鼻咽腔構音は自然治癒が多く、訓練予後も良好である。
  1. 側音化構音、口蓋化構音は自然治癒が少なく、丁寧な訓練が必要である。
 
小児の構音発達(推奨度2)[2]
  1. 子どもの構音発達において、母音は子音よりも早く、3歳頃に完成する。
  1. 子音は6~7歳頃に完成する。<図表>
  1. 獲得の早い音は「パ行」「バ行」「タ行」「ダ行」「カ行」「マ行」「ナ行」「ヤ行」など。
  1. 獲得の遅い音は「サ行」「ザ行」「ツ」「ラ行」。
  1. 音の完成までの間、子どもは音を省略したり、自分の持っている音のレパートリーのなかから近い音を代わりに使用する(未熟構音、いわゆる「赤ちゃんことば」)。
  1. 構音獲得は個人差が大きく、特に低年齢ほど著しい。
問診・診察のポイント  
 
  1. 構音障害の原因が明らかであるかどうかで問診の流れが異なる。口蓋裂や頭頚部癌の術後など局所の器質的異常が明らかである場合や、すでに診断が下されている全身疾患に起因する場合は、発音しにくい音や同一器官を用いる嚥下の様子、それまでの治療経過などを聴取する。

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文献 

岡崎恵子,加藤正子,北野市子 編:口蓋裂の言語臨床第3版.医学書院,東京,2011.
今井智子:構音障害.綜合臨牀60増:1283-1286、2011.
熊倉勇美:舌切除後の構音機能に関する研究.音声言語医学26:224-235,1985.
城本 修,原 由紀 編:標準言語聴覚障害学 発声発語障害学第3版. 医学書院, 東京, 2021.
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
今川記恵 : 特に申告事項無し[2024年]
櫻井結華 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:森山寛 : 未申告[2024年]
監修:小島博己 : 特に申告事項無し[2024年]

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