今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 河村満1) 奥沢病院

著者: 杉本あずさ2) 昭和大学藤が丘病院脳神経内科

監修: 高橋裕秀 昭和大学藤が丘病院 脳神経内科

著者校正/監修レビュー済:2022/03/02
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)。

概要・推奨   

  1. 言語障害の患者には、その症状が失語症であるか否かを鑑別することが必要である。

病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
  1. 失語症とは、獲得された言語知識が、言語機能を担う大脳病変によって後天的に障害された状態である。
  1. 音声言語の異常を来さない場合には失語症とは呼ばない(純粋失読、純粋失書)。
  1. 音声言語のみが障害された場合にも、単一モダリティの障害では失語症と呼ばない(純粋語聾、純粋語唖)。
  1. 失語症状の最も古い記載は、3600年以上も前のパピルスに遡れるといわれる。
  1. 学問的レベルで失語症が検討されはじめたのは、脳研究黎明期の19世紀であり、わずか150年程前である。
  1. 構音障害:構音障害では書字障害は認めない。
  1. 認知症:認知症では言語障害以外の症状に特徴がみられる。
 
  1. 典型的症例集:症例1(参考文献:[1]
  1. 病歴:50歳男性、右利き。うまく話せない、箸がうまく使えない、歩行時に躓くことを主訴に来院した。
  1. 診察:意識は清明で見当識障害もみられなかった。右顔面中枢麻痺がみられ、挺舌で舌の右方への偏倚がみられた。軟口蓋と咽頭の運動、感覚、反射は正常。右上下肢に軽度の運動麻痺と右Babinski徴候が認められる。言語理解は正常に保たれていたが、自発語の現象、発話の非流暢、助詞の脱落や誤り、音読の異常、喚語困難、復唱障害がみられた。書字では仮名の錯書がみられた。
  1. 診断のためのテストとその結果:脳MRIで、下前頭回後部(Broca野)から中心前回下部に至る前頭頭頂弁蓋に異常信号域がみられた。異常信号域の内側は左被殻の外側の島に及んでいた。
  1. コメント:Broca失語と診断した。
 
Broca失語症例の脳MRI像

下前頭回後部(Broca野)から中心前回下部に至る前頭頭頂弁蓋に異常信号域がみられる。異常信号域の内側は左被殻の外側の島に及んでいる。

出典

平山 惠造,河村 満:MRI脳部位診断.医学書院,1993;74.
 
  1. 典型的症例集:症例2(参考文献:[1]
  1. 病歴:52歳男性、右利き。言葉がうまく話せず、他人の話すこともわからなくなり来院した。
  1. 診察:発話は流暢だが語性・音韻性錯語、迂言、呼称障害、書字障害、読字障害がみられた。聴覚的理解が重篤に障害された。
  1. 診断のためのテストとその結果:脳MRIで、上側脳回からその後方にかけて異常信号域を認めた。
  1. コメント:Wernicke失語と診断した。
 
Wernicke失語症例の脳MRI像

上側頭回からその後方にかけて異常信号域を認める。

出典

平山 惠造,河村 満:MRI脳部位診断.医学書院,1993;178.
 
  1. 典型的症例集:症例3(参考文献:[1]
  1. 病歴: 53歳男性、右利き。
  1. 臨床所見:言葉がうまく話せず、電話の相手が話を理解できなかった。軟口蓋、舌、顔面、上下肢の運動麻痺はない。発話は流暢だが音韻性の錯語が多く、自己の誤りを繰り返し訂正しようとするが修正が困難だった。語性錯語は目立たない。復唱障害が顕著であった。聴覚的理解の障害はごく軽度で、Yes-No形式の質問にはほぼ完全に答えることができた。音読の障害、書字における錯書がみられた。
  1. 診断のためのテストとその結果:脳MRIで、左側縁上回の皮質・皮質下白質から深部白質にかけて楔形の病巣がみられた。
  1. コメント:伝導失語と診断した。
 
伝導失語症例の脳MRI像

左側縁上回の皮質・皮質下白質から深部白質にかけて楔形の異常信号の病巣がみられる。

出典

平山 惠造,河村 満:MRI脳部位診断.医学書院,1993;126.
問診・診察のポイント  
  1. 言語障害をもった患者をみたら、その症状が失語症であるか否かを鑑別しなければいけない。意識や注意、見当識の問題によるものは失語症に含まない。特に、失語症と鑑別が必要な症候には、構音障害や認知症が挙げられる。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
河村満 : 特に申告事項無し[2024年]
杉本あずさ : 特に申告事項無し[2024年]
監修:高橋裕秀 : 特に申告事項無し[2024年]

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