今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 野川茂 東海大学医学部付属八王子病院脳神経内科

監修: 内山真一郎 国際医療福祉大学臨床医学研究センター

著者校正/監修レビュー済:2025/01/15
参考ガイドライン:
  1. 日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023]
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)。

概要・推奨   

  1. トルソー症候群とは、原著では「肺癌、膵癌、胃癌などの担がん患者の胸部や上肢の表在静脈に見られる反復性・遊走性血栓症」を指すが、モダンコンセプトとしては、「悪性腫瘍に伴う凝固能亢進を基盤とした静脈血栓塞栓症venous thrombo-embolism: VTE、および非細菌性血栓性心内膜炎non-bacterial thrombo-endocarditis: NBTEなどによる脳梗塞を含む全身性動脈塞栓症」と理解される。
  1. がん関連脳卒中cancer-associated stroke: CASは、さまざまな機序によって引き起こされるが、腺癌や造血器腫瘍に伴うトルソー症候群でみられることが最も多い。NBTE由来の心原性塞栓症が最も多いと推定されるが、卵円孔開存を介する奇異性脳塞栓症も報告されている。
  1. 検査所見では、凝固系マーカーD-dimer, FDPなどの上昇がみられるほか、CA19-9, CA125などのムチン腫瘍マーカーが上昇していることも多い。頭部CT・MRIでは、境界明瞭な大小不同の多発性塞栓症が、3つの脳主幹領域にわたりみられた場合3 territory sign、CASを疑うが、単一脳動脈領域の大梗塞を呈することもある。下肢静脈ドップラー・エコーでは、約半数の症例で深部静脈血栓症deep vein thrombosis: DVTがみられる。
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病態・疫学・診察 

イントロダクション  
  1. 我が国は、65歳以上の高齢者の全人口に占める割合(高齢化率)が21%を越える「超高齢社会」であり、「悪性新生物(がん)」(上皮性悪性腫瘍の「癌」と非上皮性悪性腫瘍である「肉腫」、造血器腫瘍を含む)が死因の第1位(約30%)を占めている。
  1. 1865年フランスの内科医Armand Trousseau[1]は、胃癌患者に認められた遊走性血栓性静脈炎を“Phlegmasia alba dolens”として初めて記載し、担がん患者では血栓性静脈炎を合併し易いことを報告した。その後、「肺癌、膵癌、胃癌などの担癌患者の胸部や上肢の表在静脈に見られる反復性・遊走性血栓症」を(狭義の)「トルソー症候群」と呼ぶようになった。
  1. Trousseauの遊走性血栓性静脈炎の発見から70年余り経た1936年Gross & Friedberg[2]は、担癌患者では非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thromboendocarditis: NBTE)(図1)を合併しやすいことを報告した。本症候群では静脈血栓症のみならず脳梗塞を含む全身の動脈塞栓症を来すが、1960年Barronら[3]はNBTEが脳梗塞の主な原因ではないかとした。
 
図1.前立腺癌患者の脳梗塞と非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)

頭部MRI拡散強調画像(A)では、両側大脳半球に多発性脳塞栓症を認め、経胸壁心エコー(B)では、僧帽弁に付着する巨大な疣贅が確認された(自験例)。

出典

著者提供
 
  1. 今日、本疾患の発症機序としては、がんに伴う凝固能亢進による静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)やNBTEなどによる心原性塞栓症が中心的な役割を担っていると考えられており、本疾患のモダンコンセプトとは、「悪性腫瘍に伴う凝固能亢進を基盤としたVTE、およびNBTEなどによる脳梗塞を含む全身性動脈塞栓症」と広く理解されている[4]。わが国では、「悪性腫瘍に合併した脳梗塞」をトルソー症候群と呼ぶ傾向があるが、その基盤に悪性腫瘍による凝固能亢進が存在することが重要である。
  1. 近年、超高齢社会を背景に担がん患者が急速に増加しているが、がんの診断の1カ月前に心筋梗塞や脳梗塞が発症するリスクは約5倍に増加することが報告されている[5]。したがって、脳梗塞が先行し、潜在性の癌が後に発見されることも少なくなく、本疾患の概念を認識しておくことは、脳卒中医のみならず、がん診療を行っているすべての医師にとって極めて重要である。
疫学情報(疫学・病態)  
  1. NBTEは膠原病などでもみられるが、悪性疾患の悪液質や悪性疾患の終末期に多く認められる。このため、NBTEを合併しやすい悪性腫瘍は、心原性脳塞栓症を発症しやすいと考えられる。Lopezら[6]によるメタアナリシスでは、病理解剖でNBTEを認めた症例613例のうち、約半数に悪性腫瘍を認め、その内訳は、肺癌、膵癌、胃癌、大腸/直腸癌、胆嚢/胆管癌、白血病、卵巣癌、前立腺癌の順に多かった(図2)。すなわち、どのような悪性腫瘍でもNBTEを合併するわけではなく、腺癌あるいは造血器腫瘍が圧倒的に多いことに注意を要する。
 
 
  1. 一方、単一施設でのデータではあるが、脳梗塞やTIAを発症して神経内科にコンサルトされる担がん患者の内訳は、NBTEを合併しやすい悪性腫瘍とは少し異なっており、婦人科系腫瘍が最も多く(20.6%)、次いで腎/生殖尿路系腫瘍、消化器系腫瘍、リンパ腫、前立腺癌、肺癌、乳癌の順であった[7]。この結果からは、がんの種類により、脳梗塞の大きさ・重症度や発症機序が異なる可能性も考えられる。卵巣癌、子宮癌などの婦人科系腫瘍、特にムチン産生腫瘍では、播種性血管内凝固症候群(DIC)を来しやすく[8]、明確な症状を呈する大きな脳梗塞を起こしやすい可能性もある。
  1. 担がん患者における血栓形成機序(図3)は十分には解明されていないが、表1のような多様な機序が推定されている[9]。特に、本症候群を発症する悪性腫瘍の多くが腺癌であることから、サイトカインなどの刺激により産生され、血中に分泌された高分子ムチンのシアル酸残基が、直接プロトロンビンを活性化する機序が考えられている。また、この凝固能亢進機序とは別に、ムチン分子はP-セレクチンを介して血小板同士の凝集や血小板の血管内皮への接着を促進したり、単球を活性化したりする可能性が推定されている(図4)[10]
 
 
 

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オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
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(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
野川茂 : 講演料(エーザイ(株))[2024年]
監修:内山真一郎 : 特に申告事項無し[2024年]

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トルソー症候群

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