今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 高階經和 公益社団法人 臨床心臓病学教育研究会 理事長

監修: 伊藤浩 川崎医科大学総合内科学3教室

著者校正/監修レビュー済:2022/02/02
患者向け説明資料

病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
疫学情報:
  1. 先天性心疾患の発生率は、1,000人の正常分娩中、約10人である[1]
  1. 左右短絡病変として心室中隔欠損が最も多く、全先天性疾患の20%を占め、心房中隔欠損は7~13%で男女比は1:2で女子に多くみられる。動脈管開存は5~10%を占め、男女比は1:3で女子に多くみられる。
 
病態:
  1. 心雑音とは心音より長いノイズをいう。心房中隔欠損(<図表>)、心室中隔欠損(<図表>)、動脈管開存(<図表>)はいずれも左右短絡のため、肺血流が増大するが、短絡量の少ない症例では乳児の発育状態は正常である。
  1. 狭窄性病変として肺動脈弁狭窄(12%:弁上部、弁下部)と比較的多い。次にファロー四徴(10%:<図表>)、大動脈弁狭窄(3~6%:弁上部、弁下部)、大動脈縮窄(8~10%:男子は女子の2倍である)。大動脈離断は新生児期に重症心不全を来す疾患のうち多いものである。
  1. 大血管転位症も新生児期よりチアノーゼを来す疾患である。
  1. その他の、複合奇形などが残りの先天性心疾患であり、頻度は少ない。
 
注意事項:
  1. 心雑音の有無と、チアノーゼの有無を確認すること
 
心室中隔欠損の血行動態および心雑音イラスト

血液が左室から右室へ短絡することにより、I音からII音まで続く、全収縮期逆流性雑音が前胸壁に聴かれ、スリルを触知することが多い。II音の分裂と、拡張早期にIII音を聴く。
 
参考文献:
4) 髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-269

 
心房中隔欠損の血行動態および心雑音イラスト

短絡により左房から右房へ吸気時・呼気時を通して血液が流入し、肺動脈弁を通る血流量の増大のため肺循環血量が大循環血量より多いため、収縮早期駆出性雑音と、II音の固定性分裂が聴かれる。
 
参考文献:
4) 髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-269

 
ファロー四徴の血行動態および心雑音イラスト

①心室中隔欠損、②肺動脈狭窄、③大動脈騎乗、④右室肥大がみられ、前胸壁で収縮後期にダイアモンド型逆流性雑音が聴かれる。
 
参考文献:
髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-279

 
動脈管開存の心雑音イラスト

収縮期・拡張期にかけて、大動脈と肺動脈の間に短絡があるため、肺動脈部位に荒々しい連続性雑音を聴く。胸壁ではスリルを触知する。
 
参考文献:
4) 髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-269

 
 
  1. 心室中隔欠損(参考文献:[2][3]
  1. 1:小児の先天性心疾患で約20%にみられる。
  1. 2:心室中隔の欠損により、左室から右室へ収縮期に血液が流入する結果、前胸壁に全収縮期逆流性雑音(Levine分類のIII-IV/VI度)を聴取する。
  1. 3:肺動脈流量が増大する。
  1. 4:前学童期までに自然閉鎖する症例があるが、閉鎖しない場合は外科的処置を必要とする。
  1. 5:欠損孔が小さな場合、日常生活には制限の必要はない。
  1. コメント:小児の成長が健常児と変わらない場合には、年1~2回の定期検診を行い、経過観察する。
 
心室中隔欠損

前心臓部位・第3肋間で全収縮期雑音(IV/VI度)が聴かれ、スリルが触れる。<音声>
 
参考文献:
4) 髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-269

 
  1. 心房中隔欠損(参考文献:[4][5]
  1. 1:小児の先天性心疾患で約7~13%にみられる。
  1. 2:心房中隔の欠損により、左房から右房へ収縮期に血液が流入する結果、右室の血液量が増大し、収縮早期から中期にかけて駆出性雑音(III/VI度)を肺動脈弁部位で聴取する。
  1. 3:肺動脈流量が増大する。
  1. 4:前学童期までに自然閉鎖する症例は少ないが、比較的心音が小さいために機能性雑音とみなされ、成人になって発見されることがある。
  1. 5:小児時期は日常生活には制限の必要はないが、成長に伴って右室負荷が増大し、30歳を過ぎたころにEisenmenger 化することがあるため、前学童期~思春期までの外科的処置が望まれる。
  1. コメント:小児の成長が健常児と変わらない場合には、年1~2回の定期検診を行い、経過観察する。
 
心房中隔欠損

胸骨左縁第2肋間の部位で収縮早期駆出性雑音と2音の固定性分裂が聴かれる。<音声>
 
参考文献:
4) 髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-269

 
  1. 動脈管開存(参考文献:[6][7]
  1. 1:小児の先天性心疾患で約5~10%にみられるが、男女比は1:3で、女性のほうが多い。
  1. 2:生後も大動脈と肺動脈の間に動脈管が残存するため、収縮期・拡張期を通して絶えず血液が 大動脈から肺動脈に流入する。
  1. 3:その結果、肺動脈流量が増大する。
  1. 4:乳幼児期からは前胸部の大動脈部位に強大な連続性雑音を聴取する。
  1. 5:心室中隔欠損、心房中隔欠損と同様、肺動脈流量の増大する疾患であり、以下の外科的処置を行う。
    ①幼児期に動脈管を離断し縫合する手術、②経カテーテル的動脈管閉鎖術(Porstmann法)は、スポンジの閉鎖栓を動脈管に挿入する方法で、成人の場合に適用されるが、小児では股動脈狭窄を起こすことがあり、勧められない。③Rashkind法:カテーテルを介して2枚の傘型の閉鎖栓で閉鎖する方法である。④コイル塞栓術:比較的小さな動脈管に対してコイルを使用し閉鎖する方法である。現在Amplatzer閉鎖栓が市販されており、よく使用されている。
  1. コメント:術後はまったく正常な状態となり、日常生活も正常にできる。筆者の経験では、学童時期に手術を受け成長し、結婚して2女の母親となった女性患者がある。
 
動脈管開存

胸骨左縁第2肋間で連続性雑音(V/VI度)が聴かれ、スリルが触れる。<音声>
 
参考文献:
4) 髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ 第4版.医学書院、1996; 252-269

 
問診・診察のポイント  
  1. 出生時より、乳児のチアノーゼの有無、授乳が正常であったか、授乳を中断しなかったかどうかを母親に聞く。

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文献 

高橋長裕:図解 先天性心疾患―血行動態の理解と外科治療, 医学書院, 1997; 15-20.
Perloff J: Systolic, diastolic and continuous murmurs. The Heart. McGraw Hill, Inc. 1978; 268-287.
Levine SA and Harvey WP: Clinical auscultation of the Heart 2nd ed. W. B. Saunders Company, 1954.
髙階經和、安藤博信:心臓病へのアプローチ第4版.医学書院、1996: 252-269.
髙階經和: Clinical Bedside Cardiology. 臨床心臓病学教育研究会, 2008; 41-47, 88-89.
高橋長裕:図解 先天性心疾患―血行動態の理解と外科治療, 医学書院, 1997; 31-37.
髙階經和: Clinical Bedside Cardiology. 臨床心臓病学教育研究会, 2008; 96-97.
T Takashina, S Yorifuji
Palmar dermatoglyphics in heart disease. Differential studies in Japanese and American populations with congenital and acquired heart diseases.
JAMA. 1966 Aug 29;197(9):689-92.
Abstract/Text
PMID 5952910
髙階經和:心臓病患者の診察ガイドブック. インターメディカ, 2008; 78-132.
高橋長裕:図解 先天性心疾患―血行動態の理解と外科治療. 医学書院, 1997; 103-109.
Constant, J.: Essentials of Bedside Cardiology, Little Brown, 1989, 176-245.
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
高階經和 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:伊藤浩 : 講演料(第一三共(株),大塚製薬(株))[2024年]

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心雑音(先天性心疾患)

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