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著者: 山本明美 旭川医科大学 皮膚科学講座

監修: 戸倉新樹 掛川市・袋井市病院企業団立 中東遠総合医療センター 参与/浜松医科大学 名誉教授

著者校正/監修レビュー済:2022/06/08
患者向け説明資料

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 魚鱗癬は体表の広範囲に鱗屑がみられることを主徴とする疾患群である。
  1. 先天性(遺伝性)と、内臓悪性腫瘍などに随伴する後天性とに分けられる。ここでは前者について解説する。
  1. 先天性魚鱗癬には、①皮疹以外の症状がない群と、②他臓器障害がみられる魚鱗癬症候群とがある。
  1. 先天性魚鱗癬では①に属する次の2つの病型の頻度が高いが、比較的軽症で外用療法により軽快する。
  1. 最も頻度が高いのは尋常性魚鱗癬(図<図表>,図<図表>)で、アトピー性皮膚炎を合併しやすい(図<図表>)。フィラグリン遺伝子異常により発症し(図<図表>)、セミ優性遺伝性である。
 
尋常性魚鱗癬

病歴:30歳代女性、若いときから気づいていた四肢のかさつきを主訴に受診。
診察:四肢の伸側を主体に魚鱗癬を認める。手掌の皮膚のしわが多い。子供2人に同じ症状とアトピー性皮膚炎を認める。
診断のためのテストとその結果:診察所見、家族歴、病歴から診断。
治療:保湿剤の外用で治療開始した。
転帰:症状は軽快している。
コメント:これから子供を産む可能性のある尋常性魚鱗癬の患者には子供に50%の確率で遺伝すること、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高いことを説明するのがよい。保湿剤の外用によってアトピー性皮膚炎の発症を防げる可能性が考えられている。

出典

旭川医科大学症例
 
尋常性魚鱗癬

白色、透明で四角い鱗屑が四肢の伸側にみられる。アトピー性皮膚炎を合併することが多い。

出典

Thomas P. Habif, MD.:Clinical Dermatology, 6th ed., CHAPTER 5; Atopic dermatitis, Figure 5-25, Elsevier, 2016.
 
尋常性魚鱗癬:アトピー性皮膚炎を合併した例

病歴:就学前の男児。ほぼ全身の痒みを伴う皮疹を主訴に受診。
診察:ほぼ全身に湿疹病変を認める。四肢に魚鱗癬を認める。手掌足底の皮膚のしわが多い。姉に同様の症状がみられる。母親に魚鱗癬を認める。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴、家族歴から診断。
治療:魚鱗癬には保湿剤の外用、湿疹のある部位にはステロイド外用薬を併用し、第2世代の抗ヒスタミン薬の内服によって軽快した。
転帰:部分的に湿疹が残存しているが、魚鱗癬は軽快している。手掌足底のしわが多いのは変わらない。
コメント:尋常性魚鱗癬に伴うアトピー性皮膚炎ではまず保湿剤の外用を十分行うことが大切である。アトピー性皮膚炎の患者を診察したときに尋常性魚鱗癬を合併しているかどうかがわかりにくいときには、手掌足底のしわが多いことが診断の手がかりになることがある。正確にはフィラグリン遺伝子の検索によって確定することができるが、この検査に保険適用はなく、限られた施設が研究目的で行っている。

出典

旭川医科大学症例
 
フィラグリン変異とアトピー性皮膚炎の発症リスクの関係

出典

W H I McLean
Filaggrin failure - from ichthyosis vulgaris to atopic eczema and beyond.
Br J Dermatol. 2016 Oct;175 Suppl 2:4-7. doi: 10.1111/bjd.14997.
Abstract/Text The main proteinaceous component of the keratohyalin granules within the granular layer keratinocytes of the epidermis is the giant, repetitive polyprotein profilaggrin. When granular layer cells commit to terminal differentiation to form the flattened squames of the stratum corneum, profilaggrin is rapidly cleaved into multiple copies of the 37 kDa filaggrin monomer, which binds to and condenses the keratin cytoskeleton, thereby facilitating cellular compression. Within the stratum corneum, filaggrin is broken down to form natural moisturising factor, a pool of amino acids and derivatives thereof that exerts multiple effects. Filaggrin is therefore essential for normal stratum corneum biogenesis and physiology. In 2006, the McLean group identified the first loss-of-function mutations in the filaggrin gene (FLG) as the cause of the common monogenic genodermatosis ichthyosis vulgaris (IV). In parallel, they showed by multiple methods that these mutations, carried by up to 10% of various human populations are the major genetic predisposing factor for atopic dermatitis (eczema) and all of the associated allergic phenotypes that constitute the atopic diathesis. This paradigm-shifting work showed that skin barrier deficiency is a major early event in the pathophysiology of eczema and allergy.

© 2016 The Authors. British Journal of Dermatology published by John Wiley & Sons Ltd on behalf of British Association of Dermatologists.
PMID 27667308
 
  1. 次に多いのはX連鎖性劣性魚鱗癬(伴性遺伝性魚鱗癬)(図<図表>,図<図表>)で、男性のみ発症する。ステロイドサルファターゼ遺伝子変異による。
 
X連鎖性劣性魚鱗癬(伴性遺伝性魚鱗癬)

病歴・診察:生後7カ月の男児。顔面を含むほぼ全身、特に四肢に魚鱗癬を認める。母方の叔父に同様の症状を認める。
治療:角質融解剤の外用により軽快。
転帰:外用薬の塗布により軽快している。
コメント:本症は尋常性魚鱗癬と比較して魚鱗癬の程度が重く、顔面にもみられることが特徴的である。男性のみに発症し、患者の母方の叔父に同症をみることがある。

出典

旭川医科大学症例
 
X連鎖性劣性魚鱗癬(伴性遺伝性魚鱗癬)

大型で褐色の四角い鱗屑がみられる。

出典

Thomas P. Habif, MD.:Clinical Dermatology, 6th ed., CHAPTER 5; Atopic dermatitis, Figure 5-26, Elsevier, 2016.
 
  1. 他の病型はまれだが、予後不良であったり、重篤な他臓器障害を伴ったりする場合がある。
  1. 先天性魚鱗癬は、指定難病であり、重症例などでは、申請し認定されると保険料の自己負担分の一部が公費負担として助成される。([平成27年7月施行])
  1.  難病法に基づく医療費助成制度 
問診・診察のポイント  
  1. 頻度の高いのは尋常性魚鱗癬とX連鎖性劣性魚鱗癬である。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
山本明美 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:戸倉新樹 : 講演料(サノフィ(株),日本イーライリリー(株),アッヴィ合同会社,協和キリン(株))[2024年]

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