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改訂のポイント:
  1. 『2024年JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』が発行されたが、本稿に関する更新はなかった。

概要・推奨   

  1. CHADS2スコアによって血栓塞栓症リスクを予想し、CHADS2スコア1点以上では心房細動と同様に直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)(推奨)またはワルファリン(考慮可)による抗凝固療法を行うことが推奨されている(推奨度1)
  1. 洞調律化時の血栓塞栓症:心房粗動のアブレーション時や直流通電によるcardioversion時にも、しばらくの間心房(左心耳)の収縮性が低下していることがあるため、抗凝固療法が推奨される(推奨度1)
  1. Ic-flutterのようにもともと主病像が心房細動であったものでは、抗凝固療法は心房細動の場合と同様終生継続すべきと考えられる(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 心房粗動は心房の規則正しく速い興奮を特徴とする上室性頻拍の一種である。何らかの疾患(高血圧症、弁膜症、虚血性心疾患など)の合併や開心術の既往歴を有する症例が多いが、明らかな背景疾患・既往を有さない特発例も存在する。
  1. 通常型心房粗動においては1分間に約300回、三尖弁輪を旋回する。
  1. 多くの症例で心房粗動の診断時あるいはその後の経過中に心房細動を合併する。房室伝導比が4:1以下と低い場合には症状は軽い。2:1伝導では心室拍数が150/分程度となり、動悸症状を引き起こすことが多く、他の上室性頻拍との鑑別を要する。
  1. 粗動の停止、再発予防には高い効果を持つ薬剤がない。大部分を占める三尖弁輪下大静脈間のいわゆる解剖学的峡部を必須回路とする通常型心房粗動は95%以上の確率でカテーテルアブレーションによる根治が見込めるため第1選択となっている。
  1. 心原性塞栓の原因となるため抗凝固療法を心房細動と同様に危険因子に合わせて実施する。すなわち適切な強度の抗凝固療法が行われていない場合で、発症時刻が確定できない場合は(自覚症状では発症時刻は確定できない)、危険因子に応じて抗凝固療法を実施し、必要に応じて心拍数調節治療を行う。
  1. 洞調律化を試みる場合、3週間以上適切な強度の抗凝固療法を継続した後に薬物的洞調律化または直流通電を行う。先行する適切な抗凝固療法が行われていない状態で、血行動態が不安定であるなどの理由で洞調律化を急ぐ場合には心房細動と同様に経食道エコー図検査で左房内血栓を否定する。
 
  1. 心房粗動の機序は?
  1. 通常型心房粗動は右房内のマクロリエントリーである。リエントリー回路は興奮が進行していく経路の左右(あるいは前後)を伝導障害部位によって占められている必要がある。通常型心房粗動では三尖弁輪が前方の伝導障害部位となっている。また後方の伝導障害部位は、下大静脈、eustachian ridge、冠静脈洞入口部、である。固定性伝導ブロックと機能性伝導ブロックによって、分界稜は心房粗動中に伝導障害領域となって後方の伝導障害部位となっていることが多い。時計回りの通常型も同様である。この回路のなかで、下大静脈、eustachian ridge、冠静脈洞入口部で囲まれている領域の興奮伝導速度が比較的遅く、いわゆる相対的伝導遅延部位を形成している。
  1. カテーテルアブレーションはリエントリー回路を興奮が旋回できないように焼灼領域を作ることが目的である。三尖弁輪から下大静脈あるいは三尖弁輪からeustachian ridgeにかけて線状焼灼を行うことでこれが達成される。
 
  1. 心房粗動と心房頻拍の違い
  1. 心房頻拍と心房粗動は、いずれも心房が規則正しく高頻度に興奮している状態となっている。興奮頻度によって240/分までを心房頻拍、それ以上の頻拍を心房粗動と分類する。例えば三尖弁輪周囲を興奮が旋回する心房粗動はマクロリエントリーを機序としている。心房頻拍も開心術後の瘢痕周囲を旋回するマクロリエントリーを機序とするものもある。局所興奮(マイクロリエントリーや撃発活動)を機序とする心房頻拍も心房粗動もあり得る。局所興奮を機序とする心房粗動においても、その興奮が心房全体に伝播するのに要する時間と頻拍周期の関係によっては心電図上基線が認められない連続波のように見える。頻拍周期が遅ければP波様の波形が認められる典型的心房頻拍波形となる。この2つの上室性頻拍には臨床背景の差があり、心房粗動患者では高頻度に心房細動を合併する。
問診・診察のポイント  
  1. 心不全症状と失神・めまいなどの脳虚血症状に留意しながら問診を行う。房室伝導比が高い状態が長時間続くと頻脈誘発性心筋症となり心不全症状を呈する可能性がある。動悸症状を感じ始めた時期や出現・消退について詳細に問診する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
奥山裕司 : 未申告[2024年]
監修:今井靖 : 講演料(第一三共(株)),原稿料((株)南江堂)[2025年]

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