今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 山口展正 山口内科耳鼻咽喉科

監修: 森山寛1) 東京慈恵会医科大学附属病院

監修: 小島博己2) 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科

著者校正/監修レビュー済:2022/09/28
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、一部追記・補足した。

概要・推奨   

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
疾患のまとめ:
  1. 航空性中耳炎[1](航空性中耳症)[2]は気圧外傷(barotrauma)の1つである。
  1. 航空性中耳炎(aero-otitis media)はArmstrong(1939年)[1]により命名されたが、笹木(1944)は気圧の陰圧の作用で生じる外傷性障害のため炎症でなく航空性中耳症と呼ぶのが望ましい[2]と提唱した。
  1. 航空機の上昇、下降時に外界圧と中耳(鼓室・乳突蜂巣)圧との圧差により生じる。<図表>
  1. 旅客機では通常下降時に生じる。
  1. 症状は耳閉塞感、耳痛、耳の違和感、難聴、耳鳴などである。乳幼児では自覚症状に乏しい。戦闘機で急上昇したときにまれではあるがめまいを生ずることがある。まれではあるが急性感音難聴を呈することがあり見逃さないことが大切である。鼓膜所見は正常、血管の拡張・充血・出血、内陥、中耳貯留液(滲出性、血性)の透見像、鼓膜穿孔などである。<図表> <図表> <図表> <図表> <図表> <図表>
  1. 年齢を問わず乳幼児、高齢者でも生じる。
  1. 一般乗客に発症した場合には保存的療法で経過良好のことが多い。
  1. 航空性中耳炎の原因・誘引、予防法、耳管の生理機能に準じた耳抜き法を認知しておくことが大切である。
 
  1. 突発的な不慮の事故において起きる中耳炎
  1. 通常航空機内の気圧は与圧システムにより水平飛行時は約0.8気圧に保たれているが、与圧機能が作動しなくなった場合には、急激に減圧し、高度10000mでは地上の1/3気圧以下になる。
  1. 急激な減圧により窒素ガスの溶解する飽和量が減少し窒素ガスの一部は気泡化し減圧症を生じ、地上の気圧の1/2になる高度5500m以上で減圧症が発生することが多い[13]
  1. 飛行機墜落後、全身所見が強く鼓膜出血所見があっても耳の自覚症状に乏しかったという症例がある。
 
  1. 幼児と高齢者症例
  1. 2歳男子:1歳より飛行機に乗る度に槌骨柄に沿った部位と鼓膜緊張部にも血管の拡張・血液の鬱滞が認められた(a)。1歳の飛行後も同所見であり自覚症状に乏しい。<図表>
  1. 3歳児以下の症例(6名)は来院時偶然見つかっている。乳突蜂巣の発育が少ない3歳児以下では鼓膜弛緩部の内陥は認められなかった。
  1. 5歳児、前日の下降時“ボー”とする。アレルギー性鼻炎あり、滲出液を伴っていた(b)。
  1. 70歳以上の高齢者症例(11症例)では、自覚症状に乏しく、張りのない鼓膜で鼓膜弛緩部の内陥を伴い中耳貯留液の存在する症例(<図表>)が多く、長期中耳炎の既往が示唆された。
  1. 追記:幼児は自分の症状を的確に言えず、高齢者も鼓膜所見に比べて自覚症状に乏しく、共に鼓膜所見の観察は大切である。
 
病態:
 
外界圧変動による中耳(鼓室―乳突蜂巣)圧と鼓膜の関係

上昇中は中耳(鼓室-乳突蜂巣)の空気が膨張し外界に対し相対的陽圧となり、鼓膜が膨隆する。上昇中は嚥下をしなくても過剰な空気が耳管より鼻咽腔へ排出される。嚥下をするとさらに改善される。水平飛行時、中耳圧と外界圧は等しくなる。下降中は中耳の空気が縮小し外界圧に対し相対的陰圧となり鼓膜は内陥する。通常は嚥下により耳管が開き、中耳圧と外界圧は平衡となり耳症状(耳閉塞感、難聴)がなくなるが、耳管が開かないと中耳圧と外界圧の圧差が増大し、耳症状が悪化する。中耳腔が陰圧になると、鼓膜の血管拡張・出血、鼓膜の内陥、中耳粘膜から滲出液露出、血性貯留液も生じうる。

出典

新図説耳鼻咽喉科・頭頸部外科講座 中耳・外耳 編集委員 森山 寛、山口展正:航空性中耳炎pp126-127、メジカルビュー社2000 より一部改編
 
  1. 外界の圧変動時中耳腔内圧は変動する。
  1. 耳管が開かないと中耳圧―外界圧が不均衡となり航空性中耳炎を生じる。
  1. 上昇中は中耳(鼓室・乳突蜂巣)の空気が膨張し外界に対し相対的陽圧となり、鼓膜が膨隆する。
  1. 上昇中は嚥下をしなくても過剰な空気が耳管より鼻咽腔へ排出される。
  1. 水平飛行中には中耳圧と外界圧は等しくなり、下降中は中耳の空気が縮小し外界圧に対し相対的陰圧となり鼓膜は内陥する。
  1. 通常は嚥下により、中耳圧と外界圧は平衡となって耳症状がなくなるが、耳管が開かないと中耳圧と外界圧の圧差により耳症状が持続・悪化する。
  1. 乳突蜂巣の気胞化の良いほうがより中耳圧の減少があるという指摘がある[3]
  1. 耳管がロックされた状態になると発育のよい乳突蜂巣ほど中耳内の空気の容量の変化は大きく、中耳粘膜・鼓膜への影響を及ぼすと考えられる[4]
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 航空機に搭乗した日時、上昇時、下降時に生じた症状を問う。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
山口展正 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:森山寛 : 未申告[2024年]
監修:小島博己 : 特に申告事項無し[2024年]

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航空性中耳炎

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