今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 毛塚剛司 毛塚眼科医院

監修: 沖波聡 倉敷中央病院眼科

著者校正/監修レビュー済:2024/07/10
参考ガイドライン:
  1. 日本神経学会多発性硬化症治療ガイドライン委員会編:多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023
  1. 日本神経眼科学会抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン2014
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 2023年3月に改訂された『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』を念頭におき、以下について加筆修正を行った。
  1. 本ガイドラインの表記に沿って用語を更新した(アクアポリン4抗体(AQP4)等)。
  1. 新たにMOG抗体関連疾患(MOG associated disease:MOGAD)の国際診断基準が策定された(Banwell B, et al. Lancet Neurol. 2023 Mar;22(3):268-282.)。
  1. 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の再発予防に対して新たに生物製剤であるエクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ、ラブリズマブが保険適用となった。さらに重症例でのAQP4抗体陽性NMOSDでは、ガイドラインで早期の生物製剤の導入が推奨されている。

概要・推奨   

  1. 視神経炎の急性期治療において、まずステロイド大量点滴療法が行われるが(推奨度1)、ステロイド治療に抵抗性の場合は血漿交換療法(推奨度2、血中アクアポリン4(AQP4)抗体陽性例では視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)として保険適用)、免疫グロブリン(IVIg)療法が推奨される(推奨度2、乾燥スルホ化人免疫グロブリンとして保険適用)。原則として、免疫グロブリン製剤は血中アクアポリン4抗体陽性例で投与されるが、他の免疫制御療法で治療改善が認められない視神経炎に対して投与を検討する。
  1. AQP4抗体陽性NMOSDの再発予防のためには、ステロイド内服が行われるが(推奨度1)、再発寛解を繰り返す場合や重症例では生物製剤(エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ、ラブリズマブ)の投与を推奨する(推奨度2)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica: NMO)は、長大な範囲にわたる視神経障害および同じく3椎体以上の範囲にわたる脊髄炎が併発した神経炎症性疾患である。視神経脊髄炎はDevic病とも呼ばれる。視神経障害は視神経のみに留まらず、視交叉や視索にまで及ぶことも多く、非可逆的な視力障害、視野障害などの視機能異常を来す。脊髄病変も視神経病変と同様、非可逆的な経過をたどることが多い。
  1. NMOは長らく多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)の視神経脊髄型との鑑別が難しく、議論されてきた。2004年にLennonらによりNMOに特異的なNMO-IgGが発見され、そのIgGはアストロサイト上のアクアポリン4(aquapolin 4: AQP4)に結合し、補体を介してアストロサイトを傷害することが判明した[1][2]
  1. NMOでは、血中のAQP4抗体が陽性となるばかりではなく、脊髄障害に伴い、髄液中のアストロサイトの器質であるグリア細胞線維性酸性タンパク質(glial fibllary acid protein: GFAP)が脱落し、髄液中GFAPが陽性となる[3]。最近、視神経炎と脊髄炎を来す典型的なNMOではないが、再発性で長大な視神経傷害のみに留まる症例や脊髄炎のみに留まる症例も報告され始め、最近ではNMO関連疾患(NMO spectrum disorder: NMOSD)と分類されるようになった[4]
  1. 血清中AQP4抗体陽性NMOSDは、わが国において、特発性視神経炎全体の12%である。NMOSDの中にはAQP4抗体陰性例も存在し、アストロサイトを標的細胞としないミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(Myelin Oligodendrocyte glycoprotein: MOG)抗体陽性例が最近注目されている[5][6]。MOG抗体陽性例は、特に視神経障害を来しやすく、再発しやすいことが知られている[7]
 
EBMに基づいた情報:
  1. NMOSDにおいて、NMO-IgGが陽性の場合には再発が多い:エビデンスランクO、J、G
  1. 解説:視神経炎ないし脊髄炎を来している患者で、血清中NMO-IgGが陽性の場合は再発しやすい。脊髄炎では、エビデンスレベルIVa(分析学的研究、コホート研究)、視神経炎ではエビデンスレベルIVb(分析疫学的研究:症例対照研究、横断研究)である。
  1. 多発性硬化症(MS)に対するステロイドパルス療法:エビデンスランクO、J、G
  1. 解説:NMOやNMOSDの急性増悪は重症であることが多く、失明につながる視機能障害や四肢麻痺や対麻痺、呼吸障害などの脊髄・脳幹障害に至ることがある。このため、NMOやNMOSDの急性期にはステロイドパルス療法が第一選択と言われているが、MSに対するエビデンスレベルはIVaからV(記述的研究:症例報告など)とあまり高くない。この研究では、MSとNMOを混同させている可能性があり、NMOやNMOSDでも効果的である可能性が高い。
  1. NMOSDに対する単純血漿交換療法:エビデンスランクC, J, G
  1. 解説:ステロイドパルス療法が無効例における血液浄化療法であるが、単純血漿交換療法のみでエビデンスレベルIVb(分析疫学的研究:症例対照研究、横断研究)に留まる。
  1. NMOSDに対する免疫グロブリン大量静注療法:エビデンスランクR、J
  1. 解説:NMOSDの一分症である急性期視神経炎(特にAQP4抗体陽性視神経炎)に対する免疫グロブリン大量静注療法が、2019年に保険収載された。さらに多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023でも、ステロイド抵抗性視神経炎の治療において推奨されている。
  1. NMOSDに対する後療法としての低用量(10 mg/日)プレドニゾロン療法:エビデンスランクO、J、G
  1. 解説:低用量(10 mg/日)プレドニゾロンの後療法は寛解期の再発予防に有効であるという報告は多いが、エビデンスレベルIVb~Vに留まる。ただし、プレドニゾロン10 mg/日を長期間内服すると、ステロイド薬の合併症が必発なので、その管理には十分注意する必要がある。
  1. NMOSDに対する後療法としてのアザチオプリン:エビデンスランクO、J、G
  1. 解説:わが国ではNMOにおけるアザチオプリンの投与量は50~100 mg/日が多く、エビデンスレベルIVbである。アザチオプリンは、プレドニゾロンと併用していることが多く、AQP4抗体も低下させ、再発を予防することができる。
  1. NMOSDの再発予防に対する生物製剤(エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ、ラブリズマブ):エビデンスランクRs、J、G
  1. 解説:血中AQP4抗体陽性NMOSDの治療製剤において、補体C5に対する抗体であり、2週間に1度の点滴静注を行うエクリズマブ、2カ月に1度の点滴静注を行うラブリズマブ、IL-6レセプター抗体であり、1カ月に1度の皮下注射を行うサトラリズマブ、B細胞のマーカーであるCD19抗体製剤であり、6カ月に1度の点滴静注を行うイネビリズマブ、同様にB細胞のマーカーであるCD20抗体製剤であり、6カ月に1度の点滴静注を行うリツキシマブが保険適用となった。ただし、ラブリズマブに関しては新しい薬剤のため、『多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023』には掲載されていない。これらの生物製剤は、NMOSDの再発予防に寄与するだけではなく、後療法として投与されているプレドニゾロンの減量・中止にも貢献できるとされている。
問診・診察のポイント  
  1. NMOは、重篤な視神経炎に脊髄炎が併発した典型例NMOだけではなく、再発性で長大な範囲に及ぶ視神経障害のみのNMOSD、3椎体以上にわたる脊髄炎のみのNMOSDも多い。このような重症な症例では必ず血清中のAQP4抗体を測定して陽性判定を確認しなければならない。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
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尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
毛塚剛司 : 講演料(中外製薬(株),田辺三菱製薬(株))[2025年]
監修:沖波聡 : 特に申告事項無し[2025年]

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