今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 加藤元嗣 公益財団法人 北海道対がん協会

監修: 上村直実 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立国府台医療センター/東京医科大学消化器内視鏡センター

著者校正/監修レビュー済:2024/02/21
参考ガイドライン:
  1. 日本消化器病学会(http://www.jsge.or.jp/ ):消化性潰瘍診療ガイドライン2015 改訂第2版(http://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/kaiyou.html)
  1. 日本ヘリコバクター学会(http://www.jshr.jp/):H.pylori感染の診断と治療のガイドライン 2016改訂版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、主にPCR法について加筆し、図表を更新した。
  1. H. pylori 感染診断の1つであるPCR法は2022年に保険適用となった。除菌前のH. pylori 診断において菌の存在とクラリスロマイシン耐性が診断できる。
  1. 非NSAIDs・H. pylori 陽性潰瘍の治療において、胃液のPCR法でクラリスロマイシン耐性菌と判明した場合は初期治療として二次除菌を施行する。

概要・推奨   

  1. 消化性潰瘍による穿孔や狭窄に対しては外科的治療を考慮し(推奨度1)、程度の軽い限局性腹膜炎の穿孔に対しては内科治療の適応がある(推奨度2)
  1. 出血性胃・十二指腸潰瘍患者には内視鏡的止血治療を行い(推奨度1)、止血困難例には外科手術(推奨度1)やInterventional radiology(IVR)(推奨度2)が行われる。
  1. NSAIDs使用者でないH. pylori 陽性の胃・十二指腸潰瘍に対して、潰瘍の治癒促進および再発予防のためH. pylori 除菌治療を行う(推奨度1)
アカウントをお持ちの方はログイン
  1. 活動性胃・十二指腸潰瘍ではH. pylori 除菌治療後に潰瘍治療を追加する(推奨度:胃1、十二指腸2)
  1. H. pylori 除菌の標準療法はカリウムイオン競合型酸阻害薬(P-CAB)もしくはプロトンポンプ阻害薬(PPI)+アモキシシリン+クラリスロマイシンもしくはメトロニダゾールの3剤併用療法の7日間投与である(推奨度1)
  1. H. pylori 除菌治療を行わない場合は、初期治療で潰瘍が治癒した後は、再発を抑制するために維持療法を行うことが推奨される(推奨度1)
  1. NSAIDs潰瘍の場合には、H. pylori 感染の有無にかかわらず、原則としてNSAIDsを中止する。NSAIDsの中止できない患者の場合には、PPI、P-CABあるいはプロスタグランジン(PG)製剤が推奨される(推奨度1)
  1. NSAIDs潰瘍の潰瘍治癒前は治癒率を高めないのでH. pylori 除菌治療を行わない(推奨度2)
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲
  1. NSAIDs投与患者でH. pylori 陽性に対しては、H. pylori 除菌治療はNSAIDs投与前では予防効果はあるが、NSAIDs投与中では再発予防効果はない(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 胃・十二指腸潰瘍とは胃および十二指腸壁の粘膜筋板を越えた深さの組織欠損を指す。
  1. 急性胃十二指腸粘膜病変として発症する急性型と、長年にわたり再発と治癒を繰り返す慢性型がある。
  1. 成因は感染性、薬剤性、過酸性(ガストリン産生腫瘍に伴うZollinger-Ellison症候群)、二次性、特発性に分類される。
 
胃・十二指腸潰瘍の成因

胃・十二指腸潰瘍の成因は大きく5つに分類できる。そのなかでも、最も重要で頻度の多い成因はH. pylori とNSAIDsである。

出典

著者提供
 
  1. 精神的ストレスは増悪因子ではあるが、直接的な原因にはならない。
  1. 胃潰瘍および十二指腸潰瘍の主な原因はH. pylori 感染で、残りの多くが非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)であり、両者の発症機序は異なるため互いに独立した成因である。
  1. 最近は非H. pylori 感染で非NSAIDsの胃・十二指腸潰瘍の報告が増えてきている。
  1. H. pylori では感染によって惹起される胃粘膜の炎症によって潰瘍が起きるが、NSAIDsではCOX1阻害によるプロスタグランジン産生が抑制されて粘膜保護作用が減弱されることと直接的な粘膜傷害によって潰瘍が引き起こされる。
 
NSAIDs粘膜傷害の発症と治癒

NSAIDs粘膜障害はCOX1阻害を介した消化管でのプロスタグランジン産生低下による間接傷害と、NSAIDs自体が消化器粘膜に働く直接傷害によって引き起こされる。胃酸の存在が消化器粘膜傷害の増悪因子となる。また、潰瘍治療にはCOX2の働きが必要となるため、NSAIDs粘膜障害は粘膜傷害を発症させると同時に傷害治療を阻止することで生じる。COX2阻害によって潰瘍治癒も阻害される。

出典

著者提供
 
  1. 胃液中の塩酸と活性化ペプシンが修飾作用として働くので消化性潰瘍と呼称される。
  1. 治療目標は短期的には症状の緩和、潰瘍の治癒で、長期的には潰瘍の再発予防であり、原因治療が中心となる。
  1. NSAIDs潰瘍は難治化しやすく、出血などを合併しやすい。また、NSAIDs投与がH. pylori 除菌後の再発を引き起こすこともある。
 
胃・十二指腸潰瘍の成因

H. pylori とNSAIDsにより潰瘍は発症する。また、潰瘍が治癒しても再発を繰り返すことになる。しかし、H. pylori 除菌で原因が除かれると再発が予防され潰瘍は永久治癒する。一方、NSAIDsの存在は潰瘍の難治化、合併症の発症、除菌後の潰瘍再発に関与する。

出典

著者提供
問診・診察のポイント  
  1. 心窩部や上腹部の鈍痛が最もよくみられる症状であるが、時に背部の重苦しい感じを訴える。

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
加藤元嗣 : 講演料(武田薬品工業(株),大塚製薬(株))[2025年]
監修:上村直実 : 講演料(武田薬品工業(株),カイゲンファーマ(株))[2025年]

ページ上部に戻る

胃・十二指腸潰瘍

戻る