今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 工藤賢三1) 岩手医科大学 薬学部 臨床薬学講座 臨床薬剤学分野

著者: 松浦誠2) 岩手医科大学 薬学部 臨床薬学講座 地域医療薬学分野

監修: 中原 保裕 (有)ファーマシューティカルケア研究所

著者校正/監修レビュー済:2022/07/20
参考ガイドライン:
  1. 日本消化器病学会:消化性潰瘍診療ガイドライン2020
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020に基づき、加筆・修正を行った。

概要・推奨   

  1. 消化性潰瘍の治療として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2受容体拮抗薬)、選択的ムスカリン受容体拮抗薬、制酸薬、防御因子増強薬、プロスタグランジン製剤(PG製剤)、抗ドパミン薬などが用いられている。
  1. 消化性潰瘍を認める患者の治療の方針を決定には、NSAIDsやアスピリンの服用歴とH. pylori感染診断が必要である。これらの結果により非NSAIDs・H. pylori陽性潰瘍、非NSAIDs・H. pylori陰性潰瘍、NSAIDs潰瘍の3つに分類して、それぞれの成因に応じた治療を選択する。
  1. なお、PPIは、胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間の保険適用上処方期限の上限がある。
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総論 

消化性潰瘍治療  
  1. 消化性潰瘍の治療として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2受容体拮抗薬)、選択的ムスカリン受容体拮抗薬、制酸薬、防御因子増強薬、プロスタグランジン製剤(PG製剤)、抗ドパミン薬などが用いられている。
 
主な攻撃因子抑制薬の作用点

消化性潰瘍治療薬を大きく分けると、消化管に対する胃酸などの攻撃因子を抑制する薬(攻撃因子抑制薬)と攻撃因子から消化管を守る防御因子増強薬に分けることができる。ここでは主な攻撃因子抑制薬の作用点を示した。
プロトンポンプ(H/K-ATPase):プロトンポンプは胃酸分泌過程の最終的な役割を果たす部位である。胃のプロトンポンプはH/K-ATPaseを有し、ATP分解のエネルギーを利用して電気化学的勾配に逆らってポンプのように物質を能動輸送する機構を介して胃酸を分泌する。
ヒスタミンH2受容体:肥満細胞より放出されたヒスタミンにより受容体が活性化され、その刺激がプロトンポンプに伝達され胃液が分泌される。またガストリンの影響によりヒスタミンの作用は活性化される。
ムスカリン受容体:副交感神経の刺激によりアセチルコリンが分泌されそれにより受容体が活性化され、その刺激がプロトンポンプに伝達され胃液が分泌される。
ガストリン受容体:G細胞から分泌されたガストリンにより受容体が活性化され、その刺激がプロトンポンプに伝達され胃液が分泌される。

出典

中原保裕:リベンジ薬理学第3版.秀和システム、2015.p115(一部改変)
 
  1. 消化性潰瘍を認める患者の治療方針の決定には、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)やアスピリンの服用歴とH. pylori感染診断が必要である。これらの結果により非NSAIDs・H. pylori陽性潰瘍、非NSAIDs・H. pylori陰性潰瘍、NSAIDs潰瘍の3つに分類して、それぞれの成因に応じた治療を選択する。
 
胃・十二指腸潰瘍の成因

胃・十二指腸潰瘍の成因はこのように分類できるが、最も重要な成因はH. pyloriとNSAIDsである。

出典

加藤元嗣先生よりご提供
 
  1. 非NSAIDs・H. pylori陽性潰瘍では、H. pyloriの除菌を行う。
  1. 非NSAIDs・H. pylori陰性潰瘍では、通常、最も強力な酸分泌抑制作用を持つPPIが初期治療の第1選択である。肝障害や薬剤アレルギーなどの原因でPPIの投与ができない場合はPPIに次いで酸分泌抑制作用を持つH2受容体拮抗薬、選択的ムスカリン受容体拮抗薬もしくは一部の防御因子増強薬の投与を行う。
  1. H. pylori除菌治療を行わない場合の初期治療において、PPIを使用する場合、PPIと防御因子増強薬の併用によっても潰瘍治癒の上乗せ効果は得られないため、PPIの単独投与を行う。
  1. H. pylori除菌治療を行わない場合の維持療法には、H2受容体拮抗薬、スクラルファートが推奨される。
  1. NSAIDs服用者では、消化性潰瘍、上部消化管出血のリスクは明らかに高まる。
 
NSAIDs粘膜傷害の発症と治癒

NSAIDs粘膜傷害はCOX1阻害に伴う間接傷害と直接傷害によって引き起こされ、胃酸が増悪因子となる。一方、COX2阻害によって潰瘍治癒も阻害される。

出典

加藤元嗣先生よりご提供
 
  1. NSAIDs潰瘍の治療において、NSAIDs中止が不可能な場合には、PPIが第1選択薬として推奨される。
  1. NSAIDs潰瘍の予防には、特異的COX2阻害薬への切り替え、PPI、PG製剤、高用量のH2受容体拮抗薬が有効である。
  1. なお、PPIは、胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間の保険適用上処方期限の上限がある。
 
プロトンポンプ阻害薬: >詳細情報 
  1. プロトンポンプ(H/K-ATPase)は壁細胞からの酸分泌の最終段階に位置する。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、それを阻害することで、強力に酸分泌を抑制する薬である。
  1. PPIに属する薬剤として、ランソプラゾール(タケプロン)、オメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)、ラベプラゾール(パリエット)、エソメプラゾール(ネキシウム)、ボノプラザン(タケキャブ)がある。
  1. 臨床的には、上部消化管出血、胃・食道潰瘍、胃食道逆流症(GERD)、非びらん性胃食道逆流症、H. pylori除菌、Zollinger-Ellison症候群の治療に用いられる薬である。
  1. これらの同効薬間では、効果の差は認められず、剤型、投与方法、薬剤相互作用、逆流性食道炎に対する最大用量などの点で異なる。
 
H2受容体拮抗薬: >詳細情報 
  1. ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2受容体拮抗薬)は、壁細胞に存在する胃液分泌を促進するH2受容体を遮断することで、酸分泌を強く抑制する薬である。
  1. H2受容体拮抗薬に属する薬剤として、シメチジン(タガメット)、ラニチジン(ザンタック)、ファモチジン(ガスター)、ロキサチジン(アルタット)、ラフチジン(プロテカジン)、ニザチジン(アシノン)がある。
  1. 臨床的には、上部消化管出血、胃・食道潰瘍、胃食道逆流症(GERD)、Zollinger-Ellison症候群の治療に用いられる薬である。
  1. これらの同効薬間では、効果の差は認められず、剤型、投与方法、薬剤相互作用、代謝経路などの点で異なる。
 
選択的ムスカリン受容体拮抗薬: >詳細情報 
  1. ムスカリン受容体拮抗薬は、胃壁細胞のムスカリン受容体に作用して胃液分泌を抑制することにより薬効を持つ薬である。
  1. ムスカリン受容体拮抗薬に属する薬剤として、チキジウム(チアトン)、ピレンゼピンなどが知られている。効果は強くなく、他の薬剤と併用して用いられる。
 
制酸薬: >詳細情報 
  1. 制酸薬は、胃酸を中和したり、酸を吸着させて胃酸の働きを抑える薬である。また胃壁の粘膜に付着して酸からの刺激を和らげる薬である。
  1. 制酸薬に属する薬剤として、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化マグネシウム(ミルマグ)、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸マグネシウム(重質炭酸マグネシウム)などが挙げられる。
 
防御因子増強薬: >詳細情報 
  1. 防御因子増強薬は、胃粘膜を保護・強化・修復することにより胃潰瘍の治療・予防に効果がある薬である。
  1. 防御因子増強薬に属する薬剤として、スクラルファート(アルサルミン)、ポラプレジンク(プロマック)、アズレン(アズノール)、アルジオキサ、エカベト(ガストローム)、アルギン酸(アルロイド)、テプレノン(セルベックス)、レバミピド(ムコスタ)、セトラキサート(ノイエル)、ソファルコン(ソロン)、ベネキサート(ウルグート)、イルソグラジン(ガスロンN)、トロキシピド(アプレース)、メチルメチオニンスルホニウムクロリド(キャベジン)などが知られている。
 
プロスタグランジン製剤: >詳細情報 
  1. プロスタグランジン(PG)、特にプロスタグランジンEの持つ細胞保護作用により胃粘膜を保護・強化する薬である。同時に胃液分泌を抑制する薬である。
  1. PG製剤に属する薬剤として、ミソプロストール(サイトテック)がある。
  1. 防御因子増強薬の中でも作用が強く、特に、NSAIDs(プロスタグランジン産生阻害薬)による胃潰瘍の予防・治療に有効である。
 
抗ドパミン薬: >詳細情報 
  1. 抗ドパミン薬は、ドパミンD2受容体を遮断してアセチルコリンの分泌を促進し、消化管機能を亢進させる薬である。
  1. 抗ドパミン薬として、スルピリド(ドグマチール)が知られている。スルピリド(ドグマチール)は、臨床的には、胃十二指腸潰瘍の治療以外にも、抗精神病薬作用、制吐作用としても用いられる。
 
ヘリコバクター・ピロリ除菌薬配合薬: >詳細情報 
  1. H. pyloriの細胞壁合成を阻害するほかに、胃壁細胞の酵素活性を抑制することで酸分泌を抑制し、胃内のpHを上昇させる。
  1. ヘリコバクター・ピロリ除菌療法における薬剤の組合せとして、一次除菌療法にはアモキシシリン・クラリスロマイシン・PPI、除菌が不成功だった場合の二次除菌療法にはアモキシシリン・メトロニダゾール・PPIが用いられる。
 
 

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
工藤賢三 : 特に申告事項無し[2025年]
松浦誠 : 特に申告事項無し[2025年]
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消化性潰瘍治療薬(薬理)

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