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著者: 椙村益久 藤田医科大学 医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科学

監修: 平田結喜緒 公益財団法人 兵庫県予防医学協会 健康ライフプラザ

著者校正/監修レビュー済:2025/01/15
参考ガイドライン:
  1. 日本内分泌学会:間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 『間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診断ガイドライン2023年版』に基づき、中枢性尿崩症の診断の手引きを更新した。
  1. また、同様の多飲、多尿を呈する疾患として鑑別が重要である心因性多飲症について加筆した。
  1. 体液量は正常~増加であり、尿浸透圧が通常100 mOsm/kg以下であることが多く、高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。
  1. 無飲性尿崩症についても加筆した。
  1. Germinomaや頭蓋咽頭腫などが広範に及ぶ場合、先天異常(septo-optic dysplasia等)、前交通動脈のクモ膜下出血または動脈瘤のクリッピング術後に多くみられると報告されている。また最近、視床下部病変を認めない無飲性尿崩症患者が報告され、抗Nax抗体の存在およびsubfornical organ(SFO)の自己免疫機序による障害が無飲性尿崩症、高Na血症を来すという新たな病態が明らかとなってきた(Hiyama TY, et al. Brain Pathol. 2017 May;27(3):323-331.)。

概要・推奨   

  1. 下垂体MRI画像所見は中枢性尿崩症の診断に有用である(推奨度1)
  1. 同様の多飲、多尿を呈する疾患として心因性多飲症との鑑別が重要である(推奨度1)
  1. 中枢性尿崩症の病因を検索することが重要である(推奨度1)
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  1. 先天性腎性尿崩症は、AVP V2受容体あるいはアクアポリン2水チャネルの遺伝子変異による。いずれも典型的な腎性尿崩症を呈するので、家族性が濃厚な場合は積極的に関連遺伝子の解析を行う必要がある(推奨度2)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 尿崩症とは、多尿、口渇、多飲の臨床症状とともに、尿検査にて多尿(3,000 mL/日以上)、低張尿(低比重尿1.005以下、低浸透圧尿300 mmol/kg以下)を認める状態である。
  1. 中枢性尿崩症は下垂体性ADH分泌異常症(中枢性尿崩症)として、厚生労働省の特定疾患に指定されている。
  1. 尿崩症の発症に関する国内の疫学情報はないので、デンマークのデータを示したい。デスモプレシン使用状況から中枢性尿崩症の新規発症例を推定しているが、新規発症は10万人当たり3~4人と想定される[1]
  1. 先天性腎性尿崩症は、指定難病であり、その一部(軽症[部分型]腎性尿崩症の診断基準を用いてバソプレシン投与後尿浸透圧300 mOsm/kg以下)などでは、申請し認定されると保険料の自己負担分の一部が公費負担として助成される。(令和6年4月施行)
  1.  難病法に基づく医療費助成制度 
 
中枢性尿崩症の診断の手引き(間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023 年版)[2]
  1. 主症候
  1. 口渇
  1. 多飲
  1. 多尿
  1. 検査所見
  1. 尿量は成人においては1日3,000 mL以上または40 mL/kg以上、小児においては2,000 mL/m2以上
  1. 尿浸透圧は300 mOsm/kg以下
  1. 高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05 mL/kg/minで120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。
  1. 水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300 mOsm/kgを超えない。
  1. バソプレシン負荷試験 [バソプレシン(ピトレシン注射液)5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿] で尿量は減少し、尿浸透圧は300 mOsm/kg以上に上昇する(注3)。
  1. 参考所見
  1. 原疾患の診断が確定していることが特に続発性尿崩症の診断上の参考となる。
  1. 血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。
  1. MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。
  1. 鑑別診断
  1. 多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。
  1. 心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。
  1. 腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性 [腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの] に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。
 
[診断基準]
  1. 確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。
 
[病型分類]
  1. 中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。
  1. 特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部―下垂体系に認めないもの。
  1. 続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部―下垂体系に認めるもの。
  1. 家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体優性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。
 
(注1)著明な脱水時(例えば血清ナトリウム濃度が150 mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(例えば1日尿量が10,000 mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。
(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149 mEq/Lの時の推定血漿バソプレシン濃度が1.0 pg/mL未満。
https://kannoukasuitai.jp/academic/cdi/index.html
(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。
(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。
 
バゾプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)の病因

出典

間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班:間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年版、バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)の診断と治療の手引きp19、日本内分泌学会雑誌99巻(2023) Suppl. July https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/99/S.July/99_1/_pdf/-char/ja(2024/06/24閲覧)
病歴・診察のポイント  
  1. 多尿が急にみられるようになったか。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
椙村益久 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:平田結喜緒 : 特に申告事項無し[2024年]

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