今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 吉村弘 伊藤病院

監修: 平田結喜緒 公益財団法人 兵庫県予防医学協会 健康ライフプラザ

著者校正/監修レビュー済:2023/10/11
参考ガイドライン:
  1. 日本甲状腺学会:バセドウ病治療ガイドライン2019
  1. 日本甲状腺学会日本内分泌学会:甲状腺眼症診療の手引き2020
  1. 欧州甲状腺学会(European Thyroid Association:ETA):2018 European Thyroid Association Guideline for the Management of Graves' Hyperthyroidism
  1. 米国甲状腺学会(American Thyroid Association:ATA):2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis
  1. 日本甲状腺学会:甲状腺ホルモン不応症診療の手引き(2023)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 甲状腺眼症診療の手引きに基づき、バセドウ病眼症について加筆した。重症度の評価および治療法について重症度別に解説した。
  1. 【重症度の評価】
    軽症の眼症:2 mm未満の軽度眼瞼後退(眼裂開大8~10 mm)、軽度の軟部組織所見、15~18 mm未満の眼球突出が見られるケースが該当する。MRIが推奨され、経過観察または病態に応じた治療が行われる。
    中等症から重症の眼症:失明の危険性はないが、視機能障害や眼症状によるQOLの低下が見られ、治療を考慮すべき症例である。2 mm以上の眼瞼後退(眼裂開大>10 mm)、中等度以上の軟部組織所見(顔貌の変化をきたす程度)、18 mm以上の眼球突出、周辺視や正面視での複視(恒常的な複視)のいずれかまたは複数の症状が見られる。
    最重症の眼症:重度の場合、失明に至る可能性がある。眼球突出、眼瞼後退、眼瞼の閉鎖不全により角膜の乾燥が起こり、角膜の潰瘍・穿孔・壊死により視力低下がもたらされる。早急な治療介入が必要とされる。
  1. 【治療】基本的治療として、禁煙、甲状腺機能の正常化を行う。
    軽症の眼症:主として経過観察が推奨される。病状に応じて眼症の評価をMRIで行い、適切な治療法を選択する。
    中等症~重症の眼症:活動性のある状態では推奨される治療は、①パルス療法と放射線外照射の併用療法、②パルス療法単独、③放射線外照射単独の順番である。非活動性の状態では眼科的な機能回復手術が適応となる。
    最重症の眼症:至急のステロイド・パルス療法が推奨される。この治療が2週間後に結果を示さない場合、眼窩減圧術の実施が検討される。
    難治例や再発例:パルス療法と放射線外照射の併用療法に加えて、その他の免疫抑制剤や眼窩減圧術の適応も考慮される。
  1. また新しい治療法として、欧米では重症例に対するソマトスタチン誘導体やリツキシマブ(rituximab)、トシリズマブ(tocilizumab)、テプロツムマブ(teprotumumab)、抑制型のTRAb(TSBAb)のヒトモノクローナル抗体であるK1-70などの抗体薬やセレン欠乏例に対するセレニウムなどの治療薬の有用性が報告されている。2020年1月21日米国食品医薬品局(FDA)は甲状腺眼症の治療薬としてTeprotumumabを承認しており、TeprotumumabとK1-70は本邦でも治験が進行中である。
  1. 甲状腺ホルモン不応症診療の手引き(2023)に基づき、甲状腺ホルモン不応症(Resistance to Thyroid Hormone:RTH)について加筆した。
  1. RTHの発症頻度は4万人の出生に一人で、男女差は認めない。遺伝形式は常染色体性顕性遺伝である。このために児が変異TRβ遺伝子をもたない場合、流産、低出生体重となる可能性がある。
  1. 主要症候:1)明瞭な臨床症状がないことが多いが、甲状腺機能亢進症または低下症の症状も認める。2)軽度のびまん性甲状腺腫大や頻脈がしばしば観察される。3)血中の甲状腺ホルモン濃度と全身の代謝状態が一致しない。
  1. 検査所見:1)FT4値が高いが、TSHは基準値内~高値を示す(不適切TSH分泌(SITSH)症候群)。2)甲状腺ホルモン受容体β(TRβ)遺伝子(THRB)に変異がある。
  1. 診断基準:1)確実例:主要症候3項目と検査所見の2項目を満たす。2)疑診例:主要症候の一部と検査所見の1)を満たす。
  1. 重症度基準:1)軽症:SITSH・甲状腺の軽度腫大以外の症状を示さず、日常生活に支障がない。2)中等度:頻脈による動悸や易被刺激性などを示し、日常生活に支障がある。3)重症:著しい頻脈や心房細動、注意欠陥多動性障害、精神発達遅延・成長障害など日常生活に著しい支障がある。
  1. 治療:症例数が少ないので十分なエビデンスはないが、現段階では以下のように推奨されている。
    頻脈に対しては加齢により心房細動の頻度が高くなるので、β遮断薬を投与する。抗甲状腺薬は原則として使用しない。小児では甲状腺中毒症状の緩和や発育不全の回避を目的として有効な例もあるが、長期の投与は推奨されない。手術は顕著な甲状腺腫や腫瘍などが合併しない限り行わない。131I内用療法の有効性を示した報告はなく、下垂体腫大が生じたという報告があるので行わないことが推奨されている。

概要・推奨   

  1. FT3・FT4高値、TSH低下の検査結果では、TRAb(感度、特異度とも95%以上)を測定し、バセドウ病と他の甲状腺中毒症を起こす疾患の鑑別を行うことが勧められる(推奨度1、CJ)
  1. バセドウ病の薬物治療の第一選択薬は、妊娠初期(器官形成期の4週0日から15週6日)を除き、チアマゾールとする(推奨度1、JG)
  1. 妊娠初期は催奇形性の観点から妊娠5週0日から9週6日まではチアマゾールを避けるべきである(推奨度1、OJG)
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  1. バセドウ病の初期治療では、軽症(例えばFT4が5 ng/dL以下の症例)ではチアマゾール15 mg/日、中等度から重症(例えばFT4が5 ng/dL以上の例)ではチアマゾール15 mg/日とヨウ化カリウム丸[50 mg]1錠で治療開始することが勧められる(推奨度1、RsJ)
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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
吉村弘 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:平田結喜緒 : 特に申告事項無し[2024年]

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